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今日も走ろう(鏑木毅)

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入院して知る 当たり前に走れる喜び

2018/8/16 6:30
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7月、高熱が下がらず連日続いて、ついには入院となった。極度の疲労から免疫力が低下、何らかのウイルスに感染したらしいとのことだった。秋に出場を予定していた今年のターゲットレースに向けて無理を重ねてトレーニングを積んだせいだろう。ここ1~2カ月は大会プロデュースなどさまざまな仕事が集中していた。体が拒絶のサインを出したのかもしれない。

感染の恐れがあり病室から出ることを許されなかった。入院当初は40度もの熱や悪寒で何も考える余裕はなかったものの、熱が下がるにつれ普段あまり考えないことが頭に浮かんでくるようになった。振り返ってみれば40歳で公務員を辞めプロトレイルランナーとなり、この10年、ほぼ一日たりとも休みなくトレーニングに打ち込み、さまざまな仕事に取り組んできた。この入院の1週間はある意味貴重な時間だったともいえる。

7月、極度の疲労からくる感染症で入院した

7月、極度の疲労からくる感染症で入院した

入院してまず思い浮かんだのは相反するふたつの気持ちだった。一つは大きな大会を2カ月後に控えているのにトレーニングできないことへの焦りだ。これはどんなスポーツ選手も抱く思いだろう。今まで鍛えてきた体力が日ごとに衰えていく。せっかく苦労して積み上げた貯金を猛烈な勢いで取り崩しているようで何とも心苦しい。

そしてもう一つの気持ち。自分でも意外だったが、それは安堵感だった。これまで常に頭の中は「強くなるために自分には一体何が足りないのか」でいっぱい。この苦悶の日々からちょっとでも離れられると思うと心が楽になり、まるで別の人生を生きているようで新鮮だった。若いころならこのような思いは露ほどもなかっただろうが、年齢による気力、体力の低下もあるのか、走れない状況をすんなりと受け入れることができたように思う。

感染症のため個室で、面会は家族に限られていたので一番つらかったのは会話ができないことだった。生まれてからこれほど長い時間をほとんど人と話さず過ごすのは初めて。最初のうちは気楽でいられたが、次第に情緒不安定になり、家族や友人とのなにげないやりとりがいかに大切なのかを痛感した。そして退院すると、家族との会話でさえ頭が回らず言葉が出てこなくなることにも驚かされた。

退院後は意外に歩け、脚力の衰えはあまりなさそうだとほっとしたのもつかの間、この思いはすぐに打ち砕かれた。駅の階段を上ると脚がプルプルとし、長年トレーニングした体はまるで別人となった。走るというのは長い日々の積み重ねでできるのだと再認識した。

のちに帯状疱疹(ほうしん)も併発し、結局1カ月の療養となった。わずかな期間とはいえ体力低下の影響は大きく、秋のビッグレースにも出場できなくなり失望も大きい。だがこの走れない苦しみを経験しなければ、当たり前に走れる喜びの本当の深みを味わえなかっただろう。必ずやこれからの自分の糧になると信じてトレーニングを再開している。

(プロトレイルランナー)

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