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寿命伸びて膨らむ介護費 負担は月平均7万9000円

「健康寿命」が重要に

介護が長期にわたると負担が重いし、介護保険や医療保険を通じて国の社会保障費もふくらむ

お盆休みの筧家。ファイナンシャルプランナー(FP)の幸子はダイニングテーブルに資料を広げて原稿を書いています。良男はテレビで高校野球を観戦中。そこへ中学の同級生と遊びに出かけていた満が帰ってきました。

筧幸子(かけい・さちこ、48=上) 筧良男(かけい・よしお、52=中) 筧満(かけい・みつる、15) 

筧満 ただいま。ママ、占いの本でも出すつもりなの?

筧幸子 は~?

 だってこの資料に「生命表」って書いてあるよ。この表の数字で運命を占うとか?

幸子 占いとは全然関係ありません。これは7月に厚生労働省が発表した2017年の「簡易生命表」。ニュースで「日本人の平均寿命がまた延びた」ってやってたの覚えてる? 男性は81.09歳、女性は87.26歳だったのよ。

筧良男 パパは52歳だから平均寿命まで残り30年を切ったわけか。「人生100年時代」なんて言われてるけど、ちょっと大げさな気がするな。

幸子 そういう誤解が多いから原稿を書いてるのよ。「平均寿命」というのは、いまゼロ歳の赤ちゃんが平均してあと何年生きるかという数字で、言い換えればゼロ歳の「平均余命」のこと。パパは赤ちゃんじゃないから、簡易生命表にある52歳の平均余命を見ないと。

良男 52歳の平均余命は30.78年か。平均寿命よりも長く83歳くらいまで生きるわけだ。

幸子 若くして亡くならず52歳まで生きてきた人たちの平均余命だから、平均寿命よりも長く生きることになるの。

 ふーん。高校野球でいえば、地区予選を勝ち抜いて甲子園に出場したチームの平均というイメージかな?

幸子 甲子園出場というほどのすごいレベルじゃないけど、考え方としてはそういうことね。簡易生命表をみると、ゼロ歳の赤ちゃんは女の子は2人に1人、男の子は4人に1人が90歳まで生きるの。平均寿命はこれからも延びそうだから「人生100年時代」はあながち大げさとは言えないのよ。

 でも、いくら長生きでも健康でなければ人生を楽しめないよね。

幸子 だから最近は「健康寿命」が注目されるようになってきたの。これは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことで、3年ごとに算出されているのよ。3月に発表された2016年の健康寿命は男性が72.14年、女性が74.79年だったわ。

良男 平均寿命との差が女性で約12年、男性で約9年もあるな。そんなに長い間、日常生活が制限されるの? パパの平均余命の3分の1近いじゃないか。ショック!

幸子 そういう誤解も多いわ。健康寿命は3年に1回の「国民生活基礎調査」で「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか?」という質問をして「ある」と回答した人の割合などから算出しているの。ただ、ここでいう「影響」というのは食事や入浴といった基本的な日常動作だけでなく、仕事やスポーツまで幅広く含んでいるのよ。

 若いころのように思いっきり運動できなくなったという人も「ある」と回答するかもしれないからね。本当に困っている人はもっと少ないわけだね。パパ、ちょっと安心した?

幸子 それと、日常生活が制限される期間は必ずしも人生の最期に集中するわけではないわよね。若いころは病気がちでも元気になって長生きする人はたくさんいるでしょ。だから健康寿命は「歳」ではなくて「年」で数えるのが正しいの。

良男 そういえば、ウチの会社でも病気で休職している仲間がいるな。

幸子 健康寿命に詳しいニッセイ基礎研究所の村松容子・准主任研究員が、いま65歳の男女についてそれ以降の日常生活に影響のある期間を算出したところ、男性は5.46年、女性は8.23年だったわ。さらに介護保険の要介護認定のデータと組み合わせ、日常生活の基本動作で助けを必要とする要介護2以上の期間を推計したところ、男性は1.58年、女性は3.31年だったの。

 あくまで平均だけど、だれかに世話してもらわないと暮らせない期間は数年なんだね。ただ要介護になるとお金がかかりそう。

幸子 そうね。在宅でも介護保険の自己負担だけで月2万~3万円ほどかかることがあるし、施設に入居するともっとお金がかかる。生命保険文化センターのアンケート調査では、家計の負担は「月1万円以上5万円未満」が25.3%で最も多く、次いで「月5万円以上10万円未満<」が20.9%。平均は7万9000円よ。介護が長期にわたると負担が重いし、介護保険や医療保険を通じて国の社会保障費もふくらむの。だから平均寿命を延ばしつつ、それ以上に健康寿命を延ばすことが重要ね。

良男 年をとっても健康でさえあればマイペースで働いて年金の足しにできる。元気なシニアは労働力としても期待されているんだろうな。

 そういえば夏の甲子園は今回が第100回の記念大会なんだよね。

良男 パパは第150回の記念大会もこの目で見れるよう頑張るぞ!

幸子 簡易生命表によると、いま52歳の男性のうち102歳まで生きる人は0.6%くらい。そうなれば甲子園出場くらいの快挙よ。

事前に家族で話し合いを


ニッセイ基礎研究所 村松容子さん
 平均寿命が延びるのは喜ばしいことですが、延命治療の充実もその一因になっています。老後をつらい病気を抱えながら、あるいは寝たきりで過ごすよりも、亡くなる直前まで他人の助けを借りずに自立して暮らすことが理想なのは言うまでもありません。日々の運動、食生活、所得水準――。どんな要素が健康寿命を左右するのか、相関関係をさぐる研究が盛んになっています。
 いまの60~70歳代は「子どもに迷惑をかけたくない」という意識が強いようですが、平均すると人生の最期の数年間はだれかの世話にならざるを得ないのが現実です。要介護になったら老人ホームに入るのか、在宅で過ごすならだれに世話してもらうのか、そのためのお金はどうするのか、夫婦や親子でよく話し合っておくことを勧めます。
(聞き手は表悟志)
[日本経済新聞夕刊2018年8月15日付]
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