トルコ、実体経済は安定 外貨頼みに弱み
【イスタンブール=佐野彰洋】10日のトルコリラ急落を受け、最大都市イスタンブールでは市民が外貨確保に奔走した。「たった30分でこんなに下がるとは」。繁華街ベシクタシュで、大学を卒業したばかりというクゼイさん(22)は手持ちの8000リラ(約14万円)をドルとユーロに両替した。「コーヒーを飲んでいるうちに350リラ損した」と悔しがった。

もっとも、外貨確保を除けば、銀行取り付けのようなパニックは起きていない。リラ安は物価高などで市民生活に影響を与えているものの、実体経済は現状、一定の安定を保っているためだ。
昨年の7%超の高成長からの反動や足元の通貨安の重荷はあるものの、2018年も3~4%程度のプラス成長は確保する見通し。人口約8千万人と内需に厚みがあり、自動車や観光など国際的な競争力を持つ産業もある。人口増加も続き、成長余力は大きい。
公的債務残高の国内総生産(GDP)比は約28%、財政赤字も同2%以下にとどまる。今の通貨安は、政府の支払い能力への疑念ではなく、経済・外交政策の信頼失墜の色が濃い。
もっとも、地力はあっても、このまま通貨安が続けば、実体経済への悪影響は避けられない。
懸念されるのは民間企業が抱える外貨建て債務の返済負担の膨張だ。3月末時点の対外債務4666億ドル(51兆7000億円)の約7割が民間部門に集中する。10年物国債利回りはリラ建てが20.6%、ドル建てが8.2%に跳ね上がり、市中銀行の外貨調達コストも大幅に上昇している。
エルドアン政権の強権路線を敬遠して、海外企業などのトルコ投資も減速気味だ。1~6月の海外からの直接投資は前年同期比3.6%減の48億ドルと前年割れの傾向に歯止めがかかっていない。成長マネーを呼び戻すためにも、政策運営への信頼感を取り戻すのが急務だ。