対米強硬 マネー流出 トルコ通貨急落、欧州株に波及
実体経済への影響警戒
【イスタンブール=佐野彰洋】トルコの通貨リラの急落が金融市場を揺さぶっている。対米関係の悪化に加え、金融政策への介入など強権的な政権運営も投資家の信頼を損ない、マネーの流出が止まらない。新興国通貨やユーロ、世界の株式市場にも影響が広がっており、市場は地域大国トルコの通貨・経済危機への警戒感を高めている。

通貨急落を受け、10日のトルコのイスタンブール証券取引所では幅広い銘柄に売りが殺到。代表的な株価指数のBIST100は一時9%安となった。地理や通商上の関係が近い欧州の株式相場も全面安の展開。ドイツの主要株価指数DAXは一時前日比で約2%、イタリアの主要指数も約3%それぞれ下げた。金融株を中心に幅広い銘柄に売りが広がった。日経平均株価の下げ幅も300円を超えた。
リスクを回避する売りは他の新興国通貨にも波及。南アフリカの通貨ランドは一時3%安い1ドル=14ランド台前半を付け、対ドルで2017年11月以来の水準をつけた。ロシアルーブルやアルゼンチンペソなどにも売りが膨らんだ。
10日にリラ売りが一気に加速したのは、足元で最大の懸念材料になっている対米関係悪化に歯止めがかからないためだ。

北東部バイブルト県で10日演説したエルドアン大統領は「枕の下のドル、ユーロ、金をリラに両替してほしい」と国民にリラの買い支えを要請。「これは国難だ。(両替は)経済戦争を布告した者への最良の反撃となる」と対米強硬姿勢を改めて示した。この発言を受け、外為市場ではリラ売りが再加速した。
エルドアン氏の女婿で経済政策を統括するアルバイラク財務相は10日、イスタンブールで中期経済計画の大枠を発表したが、具体策や実現性への疑念から市場の反応は冷淡だった。「中央銀行の独立は極めて重要」と言及したものの、エルドアン氏が金融引き締めを嫌って中央銀行に圧力をかけている現状では説得力に欠ける。リラは7月にトルコ中銀が事前の市場予想に反して政策金利を据え置いてから下げに拍車がかかっている。
リラの年初来下落率は、国際通貨基金(IMF)に支援を仰いだ南米アルゼンチンの通貨ペソに匹敵しており、通貨危機の様相が強まっている。
もっとも現状、実体経済や財政が危機的な状況にあるわけではない。地域の経済大国であるトルコは人口約8千万人と国内市場に厚みがあり、若年層の拡大で内需は旺盛。欧州や新興国向けの自動車産業などの集積もあり、経済の足腰は弱くない。
ただ、早期にリラ安に歯止めをかけないと、通貨安を起点に実体経済にダメージが広がりかねない。海外マネーの流出で投資にブレーキがかかるほか、輸入物価上昇でインフレが一段と進めば消費にも打撃となる。外貨建て債務を抱える企業の破綻が増えれば、金融システム不安が高まる恐れもある。トルコの官民が向こう1年間に短期債務の返済や経常赤字の穴埋めで必要とする外貨は2000億ドル(約22兆円)を超える。
貿易や金融の結びつきの深い欧州への波及リスクもある。トルコにはスペインのBBVA、イタリアのウニクレディト、フランスのBNPパリバが進出している。英フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版は10日、これら欧州大手銀の「資産状況を懸念している」という欧州中央銀行関係者の発言を報じた。
エルドアン氏が強硬路線に固執して米国との対立が長引き、通貨防衛のための中銀の利上げも阻止し続ければ、リラの信認はさらに低下しかねない。外交問題や金融政策への不用意な介入から始まった通貨急落が、実体経済の危機に発展するリスクは高まっている。