ミリの削り 履き心地追う 神戸レザークロスの木型(もっと関西)
ここに技あり

2018/8/13 11:30
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高級ブランドの靴も量産タイプの靴も木材を削る職人がいて世に出る。人の足をかたどる靴の原型「木型(きがた)」を製作する木型師と呼ばれる。全国で数十人に減ったとされるが婦人靴の神戸レザークロス(神戸市)は5人が在籍。ミリ単位で調整する技術力は靴生産の足元を支え充実した人員を背景にオーダーメードブランドに挑む。

本社2階のわずか15平方メートルほどの作業スペースは、窓から明るい日差しが差し込む。数人の職人が椅子に座って、シャリシャリと紙やすりや電動機械で木材を削っている。木材に使うのはイタリア産の広葉樹であるシデ。人工木材を使う選択もあるなか、天然にこだわるのは削りやすく調整しやすいためだ。

木型師は靴メーカーなどからの依頼を受けて靴のデザインの原型をつくる。同社では職人が木型を完成させると、スキャナーを使って3次元で読み取り、自社工場で企業に販売するプラスチック型を量産。メーカーはこのプラスチックをもとに靴を立体的に作り、消費者へと売り出す。

木型作りでは随所に技術が光る。ミリ単位での調整はもちろん、木は全体を一気に削れないため、少しずつ全面を均等にするところが技の見せどころ。靴メーカーから届く指示書には「指先ゆったり」など抽象的な依頼も多いという。木型師は要望通りの靴を作るため意図をくみ、木型にうまく落とし込んでいく。

ショールームに並ぶさまざまな靴の木型

ショールームに並ぶさまざまな靴の木型

神戸レザークロスは婦人靴専門店「エスペランサ」を運営、70年間にわたり女性靴を企画販売してきた。2015年に木型師として入社したのが五十石紀子さん(36)。男性職人が大多数のなか女性木型師は珍しい。同社では五十石さんが中心となり、16年3月に木型師発ブランドとして初のオーダーハイヒールブランド「ゲージ」を立ち上げた。前職のハイヒールを履いた営業や義肢装具会社などで働いた経験が生きたという。

靴サイズや幅に加え、個人のつま先からかかとの曲がり具合である「振り角(カーブ)」も取り入れ、足の形に近づける。色やデザインを合わせると種類は400万弱。左右を別々に注文でき、同ブランドのために計216個の木型を5人がフル稼働して約4カ月かけて製作。費用も時間もかかる。一般のメーカーでは難しいが技術力と充実した人員で企画が実現した。百貨店などで販売したところ人気に。木型師の技は足にさらなる優しさをもたらした。

神戸レザークロスは靴メーカーが集積する神戸市長田区に本社がある。阪神大震災で大きな被害を受けた地域だ。70年かけ一歩一歩積み重ねてきたノウハウを生かし、新たな挑戦に踏み出す。

文 神戸支社 沖永翔也

写真 松浦弘昌

カメラマンひとこと ショールームの壁一面にずらりと並ぶ木型に圧倒された。その数およそ750。一見どれも同じに見えるが、比較するとつま先に向かうカーブなどが微妙に異なるのが分かる。ミリ単位の差に履き心地へのこだわりを感じる。一つ一つにオーダーするユーザーとそれに応える木型師の物語があるのだろう。ファインダーをのぞきながら思った。
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