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「素直でいい人」で離職減 サイバーの意外な採用基準

サイバーエージェントの曽山哲人取締役人事統括

サイバーエージェントの曽山哲人取締役人事統括

ネットテレビ「Abema(アベマ)TV」やクラウドファンディング「Makuake(マクアケ)」など次々と新規事業を立ち上げ、業績を伸ばしているサイバーエージェント。実は東証マザーズに上場した2000年ごろは離職率が約30%に上り、社内の雰囲気も悪かったという。05年から社内風土改革に奔走してきた曽山哲人取締役人事統括に、組織風土をどう改革してきたか聞いた。

採用の失敗が退職の連鎖を生む

――00年ごろは離職率が30%だったそうですね。

「根本的な原因は、採用の失敗です。会社が拡大期で、平均年齢24~25歳のところに28~29歳ぐらいの人を幹部ポジションとして中途採用していました。大企業出身で優秀で学歴もあるが、ネット業界の経験はない人が多かった」

「そうすると入社1~2年目の若手が『自分たちの方が知っているのに』と不満に思ったりしながら、経験のない上司の言うことを聞いて結果が出ないか、結果が出たとしても上司の不興を買うかの二択になってしまい、どっちかが辞めてしまうわけです」

――現在の離職率は約8%で大幅に改善していますが、採用はどう見直したのですか。

「以前も社内の雰囲気がすべて悪いわけではなく、中には楽しんでいるチームもありました。さらに業績も伸びている。なぜそのチームは伸びているのかと経営陣が観察したとき、互いがいい人で、仕事でも助け合っているということに気付きました。それを人事部として議論して導き出した採用キーワードが『素直でいい人』です」

「裏を返せば、以前は頑固な人が多かった。新事業に反発したり、異動を打診しても行きたがらなかったり。上場直後にIT(情報技術)バブルがはじけ、会社が変わらないといけないというときなのに変化を拒否する人がいたのです」

――「素直」とはどういうことでしょうか。

「当社で言う『素直』とは、従順とは違います。上司からこれをやってと言われて何も考えずに従うということではない。人に対してではなく、上司の助言の内容や現実に起きている現象を受け止められるか。例えばインスタグラムというサービスが出始めたときに、『インスタなんて流行しない』と言ってしまう人ではなく、『伸びるかもしれない』と思える人です。変化対応力ともいえますね」

――月5000円の飲み会代支援も社風改善を狙ったものですか。

「社員同士の関係性が良いと業績が上がります。仲がいいと対話が生まれます。話す量が増えるので組織内に情報が増える。そうすると経営判断やトラブル対処などに際して選択肢が増えるので意思決定がしやすくなる。意思決定が正確になるから成果につながる。この法則に気付かず、社内の空気を良くすることが経営課題に入っていない会社が多いです」

社風を変えるには、事例をつくる

――あまり即効性はなさそうですが。

社風を変えるには事例を積み重ねることが大事という

「最初は社員もきょとんとしており、忙しくて飲み会なんて行けませんという人もいた。そもそも組織風土って、いきなり変わることはないんですよね。何か宣言があってから時間がたって、いつの間にか風土ができていたりする。その間に何が起こっているのかというと、事例の数が増えているんです」

「例えば飲み会支援では、『飲み会に行ってみたら楽しかった』とある社員が同期に言います。同期は半信半疑でも、それなら行ってみようかと思う。すると、その人も意外と楽しんでカラオケまで行っちゃったと、次の事例ができる。そのうち渋谷・道玄坂の居酒屋で『サイバーエージェント割引』まで出てくる(笑)。事例が増えていくとその情報が自分の視界や耳に自然と入ってきて、風土になります」

「逆に失敗だった人事制度を残すと、『形骸化しているよね』という台詞(せりふ)が社員の口から出てしまいます。さっきの良い事例とは反対で、形骸化の事例です。成功か失敗かを見極めるために人事制度にも目標件数などを定めて運用しています」

――失敗だと思ってやめた制度はありますか。

「事業をつくる『ジギョつく』という新規事業プランコンテストがありました。社長・役員で審査して、優勝賞金は100万円という華々しいものでした。ただ、優秀な社員の発掘という意味では成果がありましたが、ここでアイデアが出たものでビジネスとして成功したケースは、10年間で一件もありませんでした」

――なぜですか。

「コンテストで賞を決めて終わりで、事業化のための投資判断がなかったからです。そこで昨年から形を変えて『スタートアップチャレンジ』という制度を始めました。優勝したら事業化するというのを宣言しました。また、ジギョつくでは若手が提案をそのまま役員に提出していたのですが、スタートアップチャレンジでは新規事業の得意な役員が社員と面談をし、そこでアイデアをブラッシュアップします。成功確率を上げるためです」

――役員が新しいことを提案して競い合う「あした会議」もありますね。

「あした会議」では役員が新規事業などを提案して競い合う=サイバーエージェント提供

「藤田晋社長が社員と飲みに行っていたとき、ジギョつくについて『なかなか良いアイデアが出ない』という話題になったそうです。するとある社員が『(ジギョつくの)審査をする役員はよっぽど良いアイデアを持っているんですよね』と言ったんです。社長も『確かにそうだ』と気付かされ、あした会議が始まりました」

「あした会議では30社以上の新会社が生まれ、累積の売上高は1000億円ぐらいになっています。経験値のある人が自ら事業を考えるということが肝だと思います。最終的に結果はランキングが出て公開されますから、役員も必死です」

――現場にはどんな効果がありますか。

「役員が各自のテーマに合わせて4人の社員を選んでチームをつくるため数十人の社員が参加します。あした会議ではトップの意思決定がバシバシと行われますから、社員は経営判断に自分が関与していることを直接的に感じられます。初めて参加した若手は『何もできなかった』と、よくショックを受けて帰ってきますね。それだけでいい成長機会です」

挑戦と安心はセット

――ベンチャー時代は社員も一人ひとりよく見えていたと思いますが、4000人もの大きな組織で個人の能力を伸ばすコツは。

「あした会議に似た、チームによる事業創出が各部門でも行われるようになっています。トータルで200人ぐらい参加しています。ここで重要なのが『言わせて、やらせる』ということです。責任を持つことが最も人が育つポイントです。その次に大事なのが、失敗した人にセーフティーネットがあるかどうか。挑戦と安心はセットでなければならない。クビを切られるかもしれないと思ったら挑戦しないですよね」

「昔の話に戻りますが、実は新規事業をやめるときにもめることが多かったのです。『なんで撤退するんですか、それなら辞めます』という退職もありました。新規事業に優秀な人を送り込んだのに辞められると最悪です。新規事業のやめ方も大事で、資本金を使い切ったら終了とか、粗利益が1年半減少し続けたら経営陣の交代か撤退をするなど基準を明確にしています。それは、失敗しても次に進んでもらうためです」

――失敗に対するペナルティーはないのですか。

「全くないです。撤退が決まった瞬間、本人が死ぬほど恥を感じ、他の人にはない苦い体験をしています。藤田社長から『今回は撤退になったけど、メンバーをねぎらっておいて』とよく言われます。当社には社員の適性を見極めて人員配置を考える社内ヘッドハンターがいます。撤退が決まったらすぐメンバーをフォローして異動の手伝いをしたり、気持ちの整理をしてあげたりしています」

――ヘッドハンターの役割は大きいですね。

「毎月、全社員に仕事内容や体調といったコンディションを聞くウェブアンケートシステム『GEPPO(月報)』があります。そのフリーコメントで、異動したいというわけではないけれど、なんとなくキャリアにモヤモヤしているので相談にのってくれませんかと書かれていることがある。そういうときにヘッドハンターと話をするだけで落ち着く社員は結構多いんです」

――色々な制度がありますが、どういう組織にしたいのでしょうか。

「『実力主義型終身雇用』とよく言っているのですが、実力主義と日本の長期雇用のいいとこ取りをしたいと考えています。ネット企業がベンチャーばかりだった時代と違い、これからは経験と人脈が必要になるでしょう。実力がある人だけではなく、多様な人材に活躍してもらえるようにしたいです」

(安田亜紀代)

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