2019年8月23日(金)

株式市場に決別宣言 テスラ・マスク氏の賭け

2018/8/8 12:02
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【シリコンバレー=白石武志】米テスラは7日、株式の非公開化を検討していると発表した。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は声明の中で「テスラをできるだけ短期的な考え方から解放する」と述べ、四半期ごとの成果を求める投資家と決別する姿勢を示した。空売りファンドなどを排除し、カリスマ経営者である自らの賛同者と一体となった経営に切り替えたいとの思惑だが、資本市場に背を向ける判断は量産車メーカーとしての成熟を阻む恐れもある。

ツイッターでテスラの株式非公開化の方針を表明したマスクCEO=ロイター

■「資金は確保した」

「(1株当たり)420ドルでテスラを非公開にできないか考えている。資金は確保した」。7日午前10時前(米東部時間の午後1時前)。マスク氏のツイッターアカウント上に投稿されたコメントに、米国のメディアや株式市場は一時騒然とした。

公開株式にまつわる重要情報を経営者が個人のツイッター上で公表するのは異例だ。アカウントの乗っ取りなどによる誤情報の可能性も疑われ、事実関係の確認のために売買停止となった午前11時すぎ(米東部時間の午後2時すぎ)までテスラ株は乱高下した。

テスラが会社としての正式コメントを出したのはマスク氏のツイートから2時間半後。それも自社のブログにマスク氏が従業員宛てに送った電子メールを掲載するという形で情報提供された。株式非公開化の方針が正式発表された後、7日の取引でテスラ株は前日比11%高の379ドル57セントで取引を終えた。

約2200万人のフォロワーがいるとはいえ、個人のツイートで重要な経営方針を明らかにしたマスク氏の情報開示姿勢は、株式市場を軽視していることの表れとも受け取れる。

■空売りファンドと対立

マスク氏と資本市場との対立は今に始まったことではない。5月に開かれた2018年1~3月期決算では一部のアナリストの質問を「間抜けで退屈だ」として打ち切り、後に謝罪に追い込まれている。空売りを仕掛けるヘッジファンドによって株価が乱高下し、テスラ株を保有する従業員らの動揺を招いていたこともマスク氏をいらだたせていた。

「空売り王」として知られる投資家のジム・チェイノス氏はテスラ株の空売りを公言し、マスク氏について「投資家を誤った方向に誘導している」と批判してきた。一方のマスク氏も株価下落を見込んで空売りを仕掛けるショートセラーに対し、ツイッター上で何度も買い戻しを迫られると警告してきた。

株式非公開化の方針が示されたことで、米調査会社のS3パートナーズが「ショートセラーははかなく消えた」とのレポートを出すなど、今のところはマスク氏にとってしてやったりの展開となっている。

マスク氏は従業員宛てのメールの中で「最終的な決定はまだ行われていない」としつつ、株式非公開化にあたって既存株主から6日の終値に比べ23%高い1株当たり420ドルで株式を買い取る計画を示した。全ての株主に対し、非公開化後も株式を保有し続けられる選択肢を用意し、約6カ月おきに株式を売買できる機会を設けるという。

マスク氏の念頭にあるのは、自ら設立した宇宙開発ベンチャーのスペースXだ。非公開会社であるスペースXは同様の仕組みを取り入れることで、人類を火星に移住させるというビジョンに賛同する投資家や従業員らとともに長期的な視点で事業に専念できている。

■総会での決議が必要

非公開化の正式決定には株主総会の承認が必要となるが、その時期など詳細なスキームは判明していない。仮に1株当たり420ドルでテスラの全株式を取得すると、700億ドル(約7兆7000億円)超の資金が必要になる。

ただマスク氏は7日のツイッターへの投稿の中で「全ての既存投資家には非公開化後も株主としてとどまってもらいたい」と述べており、株式の買い取りに必要な資金を抑える考えだ。マスク氏も自らの出資比率を約20%で据え置き、特定の株主が経営の支配権を握ることにはならないとしている。

テスラは米国の自動車メーカーの新規公開としてはフォード・モーター以来、約半世紀ぶりに10年に米ナスダック市場に上場した。ただ、上場後も生産自動化などへの投資が先行する経営が続き、ファクトセットによると四半期ベースで最終損益が黒字になったのは13年1~3月期と16年7~9月期の2四半期のみだ。

■伸び悩む株価

7月に年産50万台規模の新工場を中国・上海に建設すると表明したのに続き、年内には欧州でも新工場の立地を決定する方針を示している。大型投資によって投資家らの成長期待をつなぎ留める狙いだが、近年はマスク氏に権限が集中するガバナンス(企業統治)の弊害も指摘されるようになり、株価は17年9月に上場来高値を付けたきり伸び悩んでいた。

マスク氏は従業員向けのメールの中で「我々の目的達成を害する邪悪な動機を持った人々がいない時にこそ、我々は最善を尽くせる」と強調した。確かにEVの普及によって石油依存を絶つという目標に賛同する支援者は多い。ただ新型車の量産難航などで足踏みを続けるなど、ぶちあげた目標に達成しないケースが多いことが空売りファンドを招いたともいえる。

低金利が生むカネ余りがいつまでも続くとは限らず、量産車メーカーとして大型の資金調達が必要なタイミングがいずれ訪れる。株式市場との決別は自ら成長のカベを作ることにもなりかねない。

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