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今日も走ろう(鏑木毅)

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スポーツ界は原点に 勝敗の前に相手敬おう

2018/8/9 6:30
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毎年7月、世界最大の自転車レースのツール・ド・フランスに熱くなる。フランス一周を3週間で駆け巡るというロマンだけでなく、盛夏のフランスの田園風景、アルプスやピレネーの山岳風景の美しさにも目を奪われる。特に心引かれるのは、この大会にまだ残る騎士道精神だ。

今年の大会でも印象的なシーンがあった。あるフランス選手が故郷の街を通過する際、全選手が示し合わせたかのようにその選手にトップを譲り、プロレーサーとして故郷に凱旋した彼に花を持たせたのだった。もちろん勝敗を左右する重要な局面でなかったこともあるだろう。それでも心打たれるシーンだった。また、有力選手に落車などのトラブルがあると、先頭集団はその選手が集団に戻るまでスピードを落とし待つという紳士協約もあるらしい。

これらには選手である以前に「人」としてどう振る舞うかが大切だという精神がこの競技に残っていることをうかがわせる。近年はドーピング問題なども取りざたされるけれども、自転車ロードレースはかつてはどのスポーツにもあった他者を敬う精神がいまだ底流にしっかりと流れる数少ない競技といえるのかもしれない。

160キロという途方もない距離でしのぎを削ったライバルだからこそ育める友情がある

160キロという途方もない距離でしのぎを削ったライバルだからこそ育める友情がある

トレイルランニングにおいても同じような経験がある。アメリカのシエラネバダ山脈のウエスタンステイツ100マイルレース(160キロメートル)はトレイルランニングの起源とも呼ばれるビッグレースだ。100キロを過ぎカナダ人選手と上位争いをしていると、私は極度の疲労でうっかり山道を踏み外し崖の斜面へ転落してしまった。幸い大事に至らずコースへ戻ろうとよじ登っていると、なんとそのカナダ人選手が待ち、「心配だったから待っていたんだ。無事でよかった」と手をさしのべ引き上げてくれた。

レースで彼は私の後塵を拝する結果に終わった。それでもあの時の彼の振る舞いをずっと忘れないし、今でも心から尊敬している。大きな名誉を得られるレースでのこの出来事は、アスリートである前に人として当然のこと、つまりは相手を心から敬うということがいかに大切であるかを再認識させてくれた。

このような考えは奇麗事だととらえられるかもしれない。だが世界のスポーツの趨勢は確実に勝利至上主義へと傾いている。ドーピングなどさまざまな問題が尽きない事実が示す通り、勝つためには手段を選ばずという風潮はいまだなくなってはいない。オリンピック競技でも他者を敬うという文言はあるものの十分とは言い難い。オリンピックはたしかに感動あふれる舞台だが、ある種の違和感をぬぐい切れないのはこのせいかもしれない。

このままでは先人が努力し積み上げたスポーツの文化は社会から認められなくなるのではないか。素晴らしい価値観を後世に伝えるためにもスポーツ界は原点に立ち戻る時期に来ている。そう思えてならない。

(プロトレイルランナー)

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