原爆の惨禍、VRやAIの力で伝える 広島の高校生ら

2018/8/5 12:00
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広島の高校生らが仮想現実(VR)やCG(コンピューターグラフィックス)、人工知能(AI)技術を使い、原爆投下前後の街の情景の再現に挑む。惨禍を生き抜いた被爆者の高齢化が進み、記憶の継承は大きな課題。6日に73回目の「原爆の日」を迎える広島で、若い力が伝承の担い手としての一歩を踏み出している。

専用ゴーグルとイヤホンを付けると、広島市中心部の産業奨励館(現・原爆ドーム)前の道に降り立った。商店や郵便局が並び、川沿いで緑の木々が揺れセミが鳴く。突然「ファーン」とサイレンが鳴った後、轟音(ごうおん)と真っ白の光に襲われ、目がくらんだ。一瞬で街は見渡す限りの焼け野原になっていた。

VRで再現した原爆が投下される直前の産業奨励館(現・原爆ドーム)周辺=広島県立福山工業高校計算技術研究部提供

VRで再現した原爆が投下される直前の産業奨励館(現・原爆ドーム)周辺=広島県立福山工業高校計算技術研究部提供

VRで再現された原爆投下直後の原爆ドーム周辺は炎が上がり、黒煙が立ちこめて暗闇に包まれた=広島県立福山工業高校計算技術研究部提供

VRで再現された原爆投下直後の原爆ドーム周辺は炎が上がり、黒煙が立ちこめて暗闇に包まれた=広島県立福山工業高校計算技術研究部提供

広島県立福山工業高校(同県福山市)の生徒らがVR技術で再現した爆心地の様子だ。2016年に制作を開始、20年までに爆心地の半径約150メートルの情景を映像と音でよみがえらせる。完成後はイベントなどで公開する予定だ。

CGなどで映像を制作する計算技術研究部の生徒らはこれまでに約100人の被爆者から話を聞き、当時の写真や産業奨励館の設計図などを収集。証言や資料を突き合わせながら建物の高さや地面の色、音を映像として作り込んでいる。

3年の中川勇飛さん(18)は写真を分析するうちに「原爆が投下された瞬間、この建物にはどのような人がいたのだろう」と考えるようになった。奪い去られたものを知ることで、原爆の恐ろしさをこれまで以上に実感したという。

「その恐怖を肌で感じてもらうために失われた街をより精緻に再現したい」と中川さん。「映像は言葉や世代を越え、多くの人にメッセージが伝えられる」と意気込む。

広島女学院高校(広島市中区)の生徒の有志7人は17年、AI技術を使って原爆投下前に撮影された白黒写真をカラー写真として再生する取り組みを始めた。これまでに被爆者などから借りた家族写真など約140枚を生まれ変わらせた。今秋にも展覧会を開き、公開する。

家族とスイカを食べる高橋久さん(右から5人目)はカラー化した写真から、フラッシュが怖くて顔を覆ったことを思い出した=広島女学院高の庭田杏珠さん、東京大の渡邉英徳教授提供

家族とスイカを食べる高橋久さん(右から5人目)はカラー化した写真から、フラッシュが怖くて顔を覆ったことを思い出した=広島女学院高の庭田杏珠さん、東京大の渡邉英徳教授提供

AIを活用しカラー化した写真=広島女学院高の庭田杏珠さん、東京大の渡邉英徳教授提供

AIを活用しカラー化した写真=広島女学院高の庭田杏珠さん、東京大の渡邉英徳教授提供

早稲田大の石川博教授らが開発したAIを活用。AIは蓄積データを基に、白黒写真に写る肌や衣服の色を推定し自動で色づける。生徒は「試作品」を持って被爆者らに話を聞き、実際の色に近づくよう修正していく。

色のついた写真を見て、記憶がよみがえる人も。家族のだんらんでの笑い話など何気ない思い出が多いが、写真に写る人が撮影後、原爆によって亡くなったという現実も突きつけられる。

リーダーの2年、庭田杏珠さん(16)は「カラー写真は白黒に比べ、被写体を身近に感じる。写真を見て自分の家庭が突然失われたらと想像し、平和の大切さを実感してくれたら」と話す。

同高でデジタル技術を生かした平和学習を指導する東京大の渡邉英徳教授は「デジタル技術で過去の資料を再生し、新しい伝え方を生み出すことは伝承の幅を広げる」と説明。「若い世代が作業を通じて原爆と真剣に向き合うことが、未来への記憶の継承につながるはずだ」と期待している。

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