2019年1月17日(木)

ダウ・デュポン、「脱複合」の先に不安の種

2018/8/3 13:51
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米国の化学2強が統合して誕生した世界最大の化学メーカー、ダウ・デュポンが誕生して、まもなく1年がたつ。2日に発表した2018年4~6月期決算は実質ベースで増収増益を達成し、巨大合併を着実に結果につなげる底力を見せつけた。ただ今はかりそめの姿。19年春からは3社に分割し、コングロマリット(複合企業)経営から決別する。最近の欧米で流行の「脱コングロマリット」は成功するか。順調な船出に見えるなかで不安の種もある。

■3600億円のコスト削減

ダウ・デュポンが成長分野とみる農業事業にも貿易戦争のリスクが高まる(米ネブラスカ州の大豆畑)=AP

ダウ・デュポンが成長分野とみる農業事業にも貿易戦争のリスクが高まる(米ネブラスカ州の大豆畑)=AP

「合併から2年で33億ドル(約3660億円)削減という目標達成に向けて順調に進んでいる」。エド・ブリーン最高経営責任者(CEO)は2日の会見で自信を見せた。

旧ダウ・ケミカルと旧デュポンが合併したのが17年9月。前年は両社の合算ベースとの比較になるが、4~6月期の売上高は前年同期比17%増の242億4500万ドル。地域・事業とわず好調で販売量が1割増え、販売価格(現地通貨ベース)も4%上昇した。リストラ費用など特殊要因を調整した1株利益は1.37ドル。前年同期比41%増で、市場の予想を共に上回った。

貢献したのは相乗効果だ。4~6月期中に3億7500万ドルの削減を実現。仕入れ値の再交渉や生産拠点の見直しで、合併当初から累計で9億ドルの削減を達成したという。

市況も後押しした。主要3事業別の売上高は農薬・種子を手がける「農業」が25%増。北米や欧州などで穀倉地帯の天候が1~3月期から改善し、農家の種子・農薬需要が回復した。旧ダウが主力だった汎用化学品が主力の「素材科学」、旧デュポンが強かった高機能素材などの「特殊産業材」ともに10%以上だった。

ダウ・デュポンは順調に見えるが。市況の恩恵も大きい。多くの製品で取引価格が高騰。17年後半から続いていた原油価格の上昇も製品価格に転嫁されている。日本の化学大手も4~6月期は増収が相次ぎ、利益も最高水準にある。

■欧米で広がる「脱コングロマリット」

大型再編の真価が問われるのはこれから。巨大になったダウ・デュポンがあえて3つの事業会社に整理、分割するのは、株式市場での評価が、割り引かれてしまう「コングロマリットディスカウント」を避けるのが目的だ。複雑な事業構造に起因する意思決定の遅れや経営資源の分散を防ぐのが主眼で、相乗効果による経費削減は副産物にすぎない。

ダウ・デュポンの計画では、素材科学(社名ダウ)を19年4月1日に分離。さらに同年6月1日、残る農業(同コルテバ・アグリサイエンス)と特殊産業材(同デュポン)をそれぞれ独立会社とする計画。それぞれが独立して、強みを引き出す狙いだ。

近年は大企業の分割が一つの潮流となっている。IT(情報技術)業界では米ヒューレット・パッカードが2分割した。重電業界では、独シーメンスと米ゼネラル・エレクトリック(GE)が高収益の医療機器部門を分離。シーメンスは1日、5つの産業事業部から、3つのカンパニー制への再編を発表。ジョー・ケーザー社長は「世界の変化は加速している。中央で効率的に管理できる時代は終わった」と語る。3カンパニーの本社をそれぞれ米国、スイス、ドイツに分ける。

化学業界にもこの波は及んでいる。塗料世界首位のアクゾ・ノーベル(オランダ)が特殊化学品を分割して別会社化した。独医薬・農薬大手のバイエルは祖業の流れをくむ素材子会社を分離・上場させて、米種子大手のモンサントを買収するなど、事業の組み替えが活発だ。

最近の潮流に乗ったダウ・デュポン。先行きに不安もある。成長分野とみる「農業」だ。米トランプ政権が保護貿易的な政策を推し進め、米中では貿易戦争にまで発展した。ブリーンCEOは関税政策の影響については「潜在的な事業への影響の分析を終えた」と説明。社内で関税の影響を緩和する調整を進め、「18年(12月通期)には実質的な影響は出ない」との見方を示した。

だが、米国産の農業では中国向けの大豆など穀物輸出が落ち込むなど影響が出始めている。ブリーンCEOは長期的な需要環境への影響は少ないと楽観的だが、「交易面での緊張の高まりで穀物相場が不安定になっている」と認めた。

複合経営なら種子販売が低迷しても伝統的な石油化学品で補うといったことも可能だ。だが、特化型になれば各分野で市況変動の業績影響をもろに受ける。農薬に強いダウと種子に強いデュポンが統合した主因は、バイオ農薬、遺伝子組み換え作物の対応など研究開発費の高騰に対応するため。これから各分野で研究開発費を捻出し、独り立ちが迫られる。

■日本勢は「総合化学」堅持

一方、日本の化学大手は「総合化学」の旗を降ろすつもりはない。三菱ケミカルホールディングスの越智仁社長は「特化型では急激な事業変化に対応しにくい」と語る。総合化学の方が、中長期的な視点で研究開発できる利点もある。日本勢は、炭素繊維と樹脂の複合技術である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のような「合わせ技」に活路を見る。

株式市場の評価はどうか。総合化学にこだわる日本勢の多くは成長余力に乏しい石油化学を抱え、特定分野で規模を大きくする欧米勢には劣る。投資家の中には「総合化学メーカー側でなくても、(環境変化に対応する)事業ポートフォリオは投資家側で組める。特定分野に絞ってくれた方が買いやすい」という声もある。欧米で近年広がる「脱コングロマリット」の背景にあるのは、アクティビスト(物言う株主)の存在だ。

ダウ・デュポンのブリーンCEOは2日、新体制の3社それぞれの資本構造を詰め、今秋に詳細を発表すると明かした。化学業界は市況に左右されるリスクと常に隣り合わせ。成長が見込める農業部門の不安要因が出てたなか、完全解体など「脱複合」路線をどこまで振り切るか。100年以上の歴史がある化学の名門の行方は業界の趨勢を占う可能性もある。

(ニューヨーク=西邨紘子、新田祐司)

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