2018年10月19日(金)

オープンイノベーション 成功したいなら社内巻き込め
日経緊急解説Live!

村山 恵一
コラム(ビジネス)
スタートアップ
本社コメンテーター
2018/8/3 6:30
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オープンイノベーションの旗を掲げ、スタートアップとの協業をめざす大企業が日本でも増えてきた。かけ声だけでは仕方がない。成果を上げるにはどうしたらいいのか。7月30日、「起業家精神を再び オープンイノベーション成功の条件」と題したイベント「日経緊急解説Live!」を開き、JR東日本スタートアップ(東京・渋谷)の柴田裕社長、サムライインキュベート(東京・品川)の榊原健太郎代表取締役と話し合った。

■JR東のCVC、出資枠は50億円

JR東日本スタートアップは2月設立のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)だ。出資枠は50億円。すでに駐車場シェアのakippa(大阪市)、腰痛対策アプリのバックテック(京都市)に出資している。実証実験にも励む。

スタートアップに急接近する背景には、経営の先行きへの危機感がある。人口減少に加え、ネット社会の進展、在宅ワークの拡大などで鉄道を使った移動ニーズが縮み、JR東日本の収益を直撃するとの読みだ。

「変化の激しい時代に自前主義のままでは取り残される」と柴田氏は話した。オープンイノベーションによって「時間、アイデア、チャレンジングな文化を買う」。

同社グループには鉄道、駅、エキナカ、ICカードのSuica(スイカ)といったインフラがある。スタートアップの発想力や技術を利用することで、グループの資産の価値を最大限に引き上げるシナリオを描く。

巨体ゆえにヒト、モノ、カネの資源は相応に抱えるが、猛スピードで経営環境が変わるなか、方向感覚を失い、何をすれば競争力が出るのかわからない――。少なからぬ数の日本の大企業にあてはまる構図だろう。

サムライはもともとベンチャー投資会社だが、いまは大企業とスタートアップをつなぐイノベーション支援が2本目の事業の柱に育っている。対象は日本のスタートアップに限らない。4年前に起業が盛んなイスラエルに拠点を設け、この地のスタートアップを日本の大企業と結びつける活動にも力を注ぐ。

「イスラエルの先端技術で日本の足りないところを補い競争優位を高めたい」と榊原氏。村田製作所がイスラエルの人工知能(AI)スタートアップと組み、ストレス分析でヘルスケア事業に挑む例などを紹介した。

では、オープンイノベーションを実のある取り組みにするには何が必要なのか。

榊原氏が挙げたのは「社内のコミュニケーション」。担当者が孤軍奮闘するだけでは、いい結果は出せない。経営トップら役員、部長クラスの人々と密に対話し、全社的な活動にしていく工夫が欠かせない。

討論するサムライインキュベートの榊原健太郎代表(右)とJR東日本スタートアップの柴田裕社長(中)(7月30日、東京・大手町)

討論するサムライインキュベートの榊原健太郎代表(右)とJR東日本スタートアップの柴田裕社長(中)(7月30日、東京・大手町)

柴田氏は自らの役目を「スタートアップとJR東日本グループの橋渡し」と表現した。JR東日本の側には、日々の業務に忙しくスタートアップとの協業に懐疑的な見方もあるが、繰り返し働きかけるうちに「少しずつ風穴があく実感」が柴田氏にはあるという。

ただ、外国勢はさらに先を行くという現実がある。AIやヘルスケアなどの分野を中心に、世界のCVCが投資攻勢をかけている。とくにインテルやグーグルといった米国の大手はスタートアップへの出資や買収を大規模に手がけ、成長戦略としてオープンイノベーションが経営にビルトインされている。

世界の大きなうねりに比べれば、日本の動きは小さく、始まったばかりと言わざるを得ない。

■サムライインキュベート、ルワンダに拠点

サムライはイスラエルに続き、アフリカのルワンダに拠点を設けた。今後の成長市場としてアフリカが有望であるうえ、先端的な技術の実証実験ができる場所になっているからとの理由だ。世界にはイノベーションのタネが数多く存在するのに、日本人はそれを追求する貪欲さに欠けるのではないか。榊原氏は「思考停止せずに考えることが日本人にとって大事だ」と問題提起した。

柴田氏はJR東日本スタートアップの社長になるまで、起業家との縁は薄く、イノベーションにかかわる仕事をしてきたわけではない。それでも「事業やサービスを広めたいというスタートアップのすさまじい情熱」に刺激を受けたという。

「スタートアップは自分たちの技術をどこに生かせばいいかと悩んでいる。生かし方については大企業の側が脳を働かせるべきところだ。情熱があればきっと見つけられるのではないか」

外国勢の背中はまだ遠いが、日本のオープンイノベーションは伸び代が大きいととらえたい。

(本社コメンテーター 村山恵一)

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村山 恵一

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IT・スタートアップ

IT(情報技術)、スタートアップをカバーする。シリコンバレー駐在時には、iPhone投入で絶頂期を迎えたジョブズ氏率いるアップルを取材した。編集委員、論説委員を経て2017年2月より現職。近著に「STARTUP 起業家のリアル」。

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