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肱川のダム放流 「中小規模の洪水対応」適切だったか

日経クロステック

愛媛県南西部を流れる肱川では、2018年7月上旬の西日本豪雨で上流の野村ダムが緊急放流を実施し、西予市で広範囲にわたる浸水被害が発生した。その下流にある鹿野川ダムでも緊急放流し、大洲市で大規模な氾濫が起こった。ダムを管理する国土交通省は規則に従った放流だと主張するが、果たしてそれは適切な対応だったのか。

国交省、マニュアル通り放流

規則通りに放流したと主張する国土交通省に対し、流域住民の間からは批判の声も出ている。万一ダムが決壊すれば被害は桁違いなので、緊急放流がやむを得なかったことは間違いない。ただ、もう少し被害を軽減するような放流の仕方はなかったのか――。こんな疑問を抱いている人は多い。

いくら規則に忠実に従って放流しても、その規則自体が現状に即した最適なものでなかったら、適切に対応したとは言えない。

ダムの操作規則では、それぞれの地域の河川整備状況や関係機関との協議などを踏まえて放流パターンを定めている。実は、鹿野川ダムと野村ダムは共に、中小規模の洪水による被害の軽減に重点を置いた規則を採用しているのだ。現行の規則を制定したのは1996年で、それ以前は大規模な洪水を想定していた。

堤防整備遅れている地域を守る

中小規模の洪水を対象としたのは、肱川下流域では堤防が未整備の地域や計画高水位に対応していない区間が多いからだ。洪水を調節する際の放流量をある程度減らして、堤防の整備が進んでいない箇所の被害を抑える必要がある。

ただし、放流量を減らせばダムが満杯になりやすい。ダムが満杯に近づくと、水をためすぎてダムが制御できなくなるのを防ぐために、流入量と同じ量を排出する「異常洪水時防災操作」と呼ぶ緊急放流を実施しなくてはならない。

鹿野川ダムの下流域では放流量が毎秒600立方メートルを超えると浸水被害が発生し始める。そこで、鹿野川ダムでは現在、流入量が毎秒600立方メートルになるまでは流入分をそのまま放流。それを超えたらダムに水をためる操作を開始して、放流量を毎秒600立方メートルで一定に保つようにしている。下流の被害を抑えながらダムの容量を残す操作規則だ。

96年の改定前は、ため始めの流入量は毎秒600立方メートルで同じだが、その後は一定の割合で放流量を増加させていた。そのため、中小規模の洪水でも下流で頻繁に被害が出ていた。

国交省「操作規則パターン分けは難しい」

鹿野川ダムでは今回、7月7日午前2時30分に流入量が毎秒600立方メートルを超えたため、規則に従って洪水貯留操作を開始して放流量をしばらく毎秒600立方メートルに抑えた。

その後、午前6時に1時間当たりの流域平均雨量が最大の47mmになったことで、ダムの水位が急激に上昇。午前7時35分に緊急放流を開始した。これで放流量が一気に増え、午後8時43分には最大となる毎秒3742立方メートルに達した。大洲市内では午前8時40分から浸水が始まっている。

記録的な豪雨になることは事前に十分、予測できたはずだ。にもかかわらず、鹿野川ダムや野村ダムでは従来通り、中小規模洪水対応の規則に沿って操作したのはなぜか。

国交省水管理・国土保全局治水課の豊口佳之事業監理室長は「操作規則を雨量の予測の規模によっていくつかパターン分けして用意することは難しい」と説明する。

鹿野川ダムでは事前に多めに放流すると一部の地域で浸水が始まるので、避難に影響を及ぼす恐れがあるという。下流の避難時間を確保できる現行の操作は、大規模な洪水に対しても効果的だとしている。

ただ、ダムの下流域の住民の間では、緊急放流開始後の急激な河川水位の上昇に戸惑った人も少なくない。避難指示が出ていながら避難をしなかった人は多いが、それは必ずしも避難時間が足りなかったからではない。放流量の急激な変化を抑えるような運用をしていれば、住民の避難行動の取り方が変わっていた可能性もある。

国交省では、放流のパターン分けについては否定するものの、今後、大規模洪水にもある程度対応できるように、操作規則の見直しを検討する。

一部で柔軟な対応も

なお、国交省は今回のダム操作について、必ずしもしゃくし定規の放流ではなく、一部で柔軟に対応した。

多目的ダムでは通常、豪雨が予想される際には、できるだけダムにためられる容量を増やすため、事前に利水用に保持していた水を排出する「予備放流」を実施する。今回、鹿野川ダムでは、規則が定める予備放流水位よりも3.6m低い位置まで放流した。

さらに、規則で定めるダムの最高水位を0.63m超えて貯水することで、緊急放流時の放流量を特別に流入量よりも最大で毎秒400立方メートル程度少なくした。こうした対応によって鹿野川ダムは今回、5時間にわたって水をためることができた。これは、避難のために確保できた時間だ。

「下流の避難時間を少しでも伸ばせたのではないか」と国交省四国地方整備局河川管理課の清水敦司河川保全専門官は話す。

(日経 xTECH/日経コンストラクション 三ケ尻智晴)

[日経 xTECH 2018年8月1日掲載]

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