2018年11月15日(木)

黒田日銀、苦心の緩和修正 早期の出口は否定

2018/7/31 23:18
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日銀は31日の金融政策決定会合で「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」を決めた。金融緩和を長く続けるため、長期金利の変動をある程度認めて緩和の副作用に配慮する。一方で将来にわたり低金利を維持すると表明する「フォワードガイダンス」を導入。物価を前年比2%の上昇とする目標の達成に向け、強力な金融緩和を続ける。

■長期金利の上昇容認 銀行への効果、限定的

「国債の取引を活発にし、市場の機能を改善するために、長期金利のある程度の変動を容認する」

日銀の政策修正を金融機関は前向きに受け止めた。長期金利の変動幅が広がれば、利回りが改善して債券運用に追い風となるからだ。31日の決定を受け、全国銀行協会の藤原弘治会長(みずほ銀行頭取)は「副作用への配慮が示された」とする談話を発表した。長期金利の一時的な変動を容認する日銀の姿勢が伝わると、銀行株が買われる場面もあった。

しかし政策の枠組みが詳しく伝わるにつれ、銀行株の終値は総じて前日を下回った。

理由は2つある。1つは金融緩和の長期化を意味するフォワードガイダンスが同時に公表されたこと。大手銀の関係者は「マイナス金利の長期戦に備える措置だ」と受け止めた。

もう1つは今回の施策による収益改善への効果が限られるためだ。マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリストは長期金利が0.1%程度上がった場合に、資金利益の増加幅は銀行界全体で250億円程度と試算した。1行平均として単純計算すると約2億円にすぎない。今回の決定で「銀行経営への好影響はほとんどない」と言い切る。

企業向け融資の利ざやは短期金利に連動するため、長期金利が上昇しても改善は見込めない。

■「早期の出口 完全に否定」

「金融緩和政策の出口に向かい、金利を引き上げるといった一部の観測は完全に否定できた」

今回の政策修正で導入した「フォワードガイダンス」は、先行きの金利水準の見通しを示して大規模な金融緩和を続けることを明確にし、緩和の効果を高める仕組みだ。日銀は31日の声明文で、当面は現行水準の超低金利を続けることを約束した。長期金利の変動をある程度容認することが、金融緩和の出口に向かう地ならしと受け止められる懸念があったためだ。

黒田東彦総裁は記者会見で「早期に金融緩和政策の出口に向かい、金利を引き上げるといった一部の観測は完全に否定できた」と施策の狙いを語った。

実際、31日の国内債券市場では長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは一時0.045%と前日より0.050%低下した。SBI証券の道家映二氏は「フォワードガイダンスがなければ、長期金利は0.2%近くまで上昇する可能性があった」と指摘する。

■「物価上昇の勢いは維持」

「企業の慎重な価格設定や、値上げに対する家計の慎重な見方が明確に転換するには至っていない」

緩和強化の仕組みを取り入れたのは、目標とする2%の物価上昇の達成がまだ見込めないためだ。日銀は同日、3カ月に1度示す「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で2018~20年度の物価見通しを下げた。

展望リポートでは通常より多くの紙面を割き、値上げに対する家計の許容度など大きく4つの観点から物価の伸びが鈍い理由を説明した。

19年10月に予定する消費税率の引き上げは物価を下押しするが、それでも日銀は「物価上昇のモメンタム(勢い)はしっかりと維持されている」(黒田総裁)と考えているためだ。

日本経済研究センターが7月にまとめた物価見通しは19年度が0.88%と日銀見通しより低い。大和総研の長内智氏は「日銀の見通しはなお強気で、今後、さらに引き下げられる可能性もある」と指摘する。

■脱デフレ、日銀頼み限界 緩和政策に漂う閉塞感
 「リスクのかなりの部分は海外だ」。黒田東彦総裁は31日の記者会見で、霧が深まる先行きについて言及した。海外経済は米中の貿易摩擦で不透明感が強い。国内も9月に自民党総裁選が控え、来年は4月に統一地方選、夏に参院選と続く。19年10月には消費増税があり、「政府も色々な対応をしているが、経済・物価への不確実性の一つだ」と言いきった。
 物価は上がらず、景気も心配だ。こうした懸念を踏まえ、日銀は将来の金融政策の指針をしめすフォワードガイダンスを導入した。黒田総裁は「当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持する」と力をこめた。
 狙いは、緩和を粘り強く続ける姿勢を世の中に約束すること。ただ、この指針に対して日銀内で金融緩和を主張するリフレ派の委員からはすぐさま反対の声があがった。
 その一人である原田泰審議委員は「物価目標との関係が明確になるガイダンスの導入が適当だ」と異論を唱えた。31日の声明文にあるガイダンスは、2%の物価目標との関係がはっきりしていない。低金利をどれだけ続けると2%の物価目標にむかうのか。その道筋を誰もが知りたいものの、黒田総裁は「当分の間」がいつかは記者会見で最後まで言葉をにごした。
 日銀が2006年に量的金融緩和を解除した際にはもっとわかりやすい指針があった。(1)消費者物価上昇率が数カ月ゼロ%以上になる(2)再びマイナスにならない(3)経済・物価情勢で判断――と3条件を示し、市場との対話を進めた。だが今回のあいまいな約束は市場が「空手形」と受けとめる危うさがひそむ。
 先週末から政策修正の観測を巡って長期金利が急騰するなど、市場が織りこめていないのは明らかだった。それでもこのタイミングで日銀が動いたのは、先行きへの強い焦りからだろう。
 緩和政策には閉塞感が漂うが、脱デフレの責任を日銀だけにおしつけるのも酷だ。日銀頼みはすでに限界を迎えている。5年前に脱デフレの共同声明を出した政府が、成長戦略などのマクロ経済政策を推進することも欠かせない。(馬場燃)

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