2019年1月20日(日)

隅々まで携帯電波、設備あいのり JTOWER

コラム(ビジネス)
2018/7/30 11:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

再開発が進み、全国で大規模な商業施設や高層マンションの建設ラッシュが続いている。多くの人が集まるビル内でも携帯電話が通じるよう通信環境整備の一端を担うのが、JTOWER(東京・港)だ。「スタートアップができる事業ではない」と言われ続けたインフラ整備は軌道に乗りつつあり、アジア市場の開拓も視野に入れる。

田中社長は20代からずっと通信業界の変遷を見てきた。

田中社長は20代からずっと通信業界の変遷を見てきた。

観光客や買い物客でにぎわう東京・銀座にある、商業施設「GINZA SIX」。高級ブランドなどが入居するきらびやかな店内の天井裏に、実はJTOWERのアンテナや装置が隠れている。

2012年設立のJTOWERは、携帯用の通信設備の共用サービスを手がける。延べ床面積が1万平方メートルを超えるような大型物件では、携帯の電波が建物の内部まで行き届くように屋内で通信環境を整備する必要がある。各階にはりめぐらせるアンテナなどを、JTOWERが通信会社に代わって整備。代わりに利用料を得ている。

携帯会社にとっては、基地局から先の設備を一本化できれば、設備投資を3~5割抑えられるほか電気代などのコストも減らせる。ビルオーナーにとっては携帯会社の数だけ設置スペースが必要だったが、設備が簡素となることで限られた空間を有効活用できる。双方の需要をJTOWERが取り込む形で、現在既に50以上の物件で利用されている。

「もともと通信業界にいたから始められた」。こう話す、田中敦史社長(44)は、1999年に創業したイー・アクセスに初期メンバーとして参加。千本倖生氏とエリック・ガン氏(現ソフトバンク専務執行役員)がゼロから会社を立ち上げ、携帯事業のイー・モバイル参入のために4千億円もの資金調達する様子を目の当たりにしてきた。

イー・モバイルでは最高財務責任者(CFO)や経営企画本部長を務めた。大型ビル向けに大手各社がバラバラに設備投資をしているのを非効率だと感じていた。

解決策の腹案はあった。20代前半はゴールドマン・サックス証券の通信・インターネット業界のアナリストで、そこで米アメリカン・タワーなど携帯の基地局用施設を所有して運営する企業の存在を知っていた。もっとも日本では通信各社がつながりやすさを競って設備投資をしており、共用化の機運は薄かった。

開発した共用設備。省ペースの設計で限られた空間を有効活用できる。

開発した共用設備。省ペースの設計で限られた空間を有効活用できる。

固定通信からモバイルへ社会全体が移行していく中で、潮目が変わる。電波が届く「カバー率」は年を追うごとに上昇し、今や携帯会社にとって競争のテーマはコンテンツ配信など周辺サービスに移った。インフラ整備が協調領域に変化したのを感じ、「通信業界の知識を備え中立的な立場で取り組めば、今なら日本でも携帯設備の共用が広がる」と起業に踏み切った。

とはいえ共用化するための装置はゼロから開発しなければならない。開発できたとしても、携帯会社に品質を認めてもらわなければ実用化できない。24時間365日安定して稼働しているか監視する必要もある。各種費用を積み上げれば膨大な金額となることから、当初はスタートアップができる事業ではないと周囲に何度も言われた。

それでも社会的意義を説明し、メンバー数人と事業計画しかない状態だったにもかかわらず、13年に産業革新機構やJA三井リース、アイティーファームから開発資金として約10億円を調達することに成功した。

開発や試験をパスし、サービスの提供開始にこぎ着けたのは14年。携帯会社だけでなく、早い段階から商業施設や不動産会社にも営業活動をして採用を呼びかけたのが実を結び、順調に導入が進んだ。

当初は想定していなかった追い風も吹いている。動画サービスが広がり通信量が増えているほか、東京五輪の開催が決定してホテルの建設ラッシュや都心の再開発が加速。今後建つ80以上の物件で採用が決まっている。さらに楽天が携帯参入を決め、基地局整備の投資も見込まれる。活躍の場は広がるが、「通信インフラのため、安定したサービスを提供しなければならないという緊張感を常に持っている」(田中社長)という。

国内だけでなく、アジア市場の開拓にも乗り出した。ベトナムでは携帯用設備を手がける現地の最大手企業を日本政策投資銀行(DBJ)とリサ・パートナーズが運用する投資ファンドと買収した。マレーシア企業と17年に提携したほか、経済発展が見込まれるミャンマーでは現地の財閥と合弁会社を設立した。田中社長は「日本の通信技術は先行しており、どんどん出て行きたい」と意欲を示す。

JTOWERの社名はアメリカン・タワーにあやかり、日本を代表する通信設備の企業を目指して名付けた。既に視野は社名を超えている。 (若杉朋子)

[日経産業新聞 2018年7月30日付]

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