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スマホQR決済、普及を待たずにサバイバル

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

中国などでは当たり前となっているスマートフォン(スマホ)にQRコードを読み込ませて買い物の支払いを済ませる仕組み。日本では普及前からサービス事業者の競争が激化している。LINEが中小向けの決済手数料を無料にする施策を打ち出すなど、早くも体力勝負の様相を呈してきた。大手との正面衝突を避けるため、スタートアップも知恵を絞る。

LINE「手数料0円」の衝撃

6月28日、QRコードを使った決済サービスを展開するスタートアップに激震が走った。

「いつでも誰でもLINEペイを使える状況をつくる」。LINEの戦略説明会で、LINEペイ(東京・新宿)の長福久弘最高執行責任者(COO)がショップや飲食店などの中小企業向けの決済手数料を8月から3年間、無料にすると発表したのだ。

経営者のスマホにインストールするだけで決済端末になる専用アプリを配信。このアプリを使って決済した場合に、手数料が無料になる仕組みだ。新たな機器を購入する必要がないため、初期費用はゼロ。長福COOは「中小零細の店舗でキャッシュレス化のネックとなっていた初期費用と手数料という2つの課題に対し、革命を起こす」と強調した。

販売額に応じて課す決済手数料は日本では現在、3~4%が主流だ。米国では2.5%、中国では0.5~0.6%がスタンダードとされている。LINEの「無料」は3年間のキャンペーンであることを割り引いても、衝撃的な数字。手数料収入をあてにする事業者を一気に土俵際に追い込むインパクトを持つ。

「LINEが本気だ」。決済アプリを手がけるAnyPay(エニーペイ、東京・港)の井上貴文社長はLINE発表会の中継を見ながらこう漏らした。同社はQRコード決済「ペイモビズ」を17年11月から本格展開している。決済手数料は一律2.95%だが、月5万円まで手数料が無料となるライトプランを用意。決済額が大きくない個人事業主を中心に導入店舗を広げてきた。

LINEは対話アプリとの連動を狙う

「LINEに対抗して、すぐに手数料を引き下げる計画はない」(井上社長)としつつ、「(手数料ゼロは)加盟店開拓を加速させるには必要。それだけ日本では普及が難しいということの裏返し」と話す。

目先の利益を捨てて普及を優先させる。LINEの戦略は明確だ。出沢剛社長は「決済手数料で稼ごうとは思っていない。ユーザーとのエンゲージメント(つながり)と、ユーザーの同意を得た上で得られる情報が価値になる」と強調する。

例えば、LINEペイを使った店舗の公式アカウントを友だちに登録するように促す店舗向けの機能もある。この店舗が友だちとなったユーザーにキャンペーン情報などを配信すれば、広告収入がLINEに入る。

通販サービス「LINEショッピング」などの利用額に応じて付与するポイントを、LINEペイで1ポイント1円として現金代わりに利用することもできる。LINEペイの導入店舗が増えればポイントの活用場面が増え、LINE経済圏の強化につながる。いずれにしてもQRコード決済の普及が大前提だ。

大手もスタートアップも急加速

実はLINE発表の1日前の6月27日、手数料の破壊を宣言していた企業があった。金融とIT(情報技術)を融合したフィンテックを展開するメタップスだ。「店舗の現金の管理コストは1%台とされる。それを下回る決済手数料を一律で提供する」として、独自サービスの「プリン」の手数料を0.95%にすると発表していた。

業界最安値の座を1日で明け渡した形だが、プリン(東京・港)の荻原充彦社長は「うちにしかない強みがある」と強気だ。プリンのアプリではスマホに入金されたお金を銀行口座に手数料ゼロで送金することができる。一方、LINEは1回当たり216円かかる。「必要な分だけスマホに入金し、余ったら口座に戻しておきたいという需要はかなりある」

実際、サービスの進化では先行している。電子マネーの現金化の機能を深掘りし、給料支払いの領域に裾野を広げており、5月には日本瓦斯(ニチガス)と提携した。9月から約1000人の検針員や配達業者向けに、プリンの報酬支払いを始める。アプリにチャージされたお金をそのまま使うほか、口座に移して現金化することもできる。

一気に過熱してきた競争を前に、大手もスタートアップも動きを早めている。ヤフーは6月から実店舗でのQRコード決済を開始。ソフトバンクと連携し店舗が印刷したQRコードを読み込む手数料ゼロの決済サービスを開始する見通しだ。幅広いサービスで入手したデータを基に利用者に最適な情報や広告を提示し、さらなる利用につなげる成長サイクルを目指す。

7月にQRコード決済「メルペイ」の加盟店を開拓する子会社を設立したのはメルカリだ。サービス開始時期を明らかにしていないが、メルペイの青柳直樹社長は「決済そのものよりも、そこからどのようなビジネスを生み出せるかに興味がある」と話す。

アマゾンジャパン(東京・目黒)も「アマゾンペイ」の実店舗での展開を目指してる。

QRコード決済の草分けの1社であるOrigami(オリガミ、東京・港)は現在、約2万の加盟店を持つ。手数料は3.25%。康井義貴社長は「(決済で集まるデータを利用し)加盟店に対しては販促支援を、消費者側には新たな金融サービスを提供できないか検討している」という。

観光客向け予約アプリを展開する日本美食(東京・千代田)は競争を避ける選択をした。同社の決済プラットフォームはクレジットカードに加え、様々なQRコード決済に対応。5月にはLINEペイとも連携し、14の決済ブランドが使えるようにしている。消費者が専用アプリを使えば手数料は無料だ。

「店舗が欲しいのは顧客と売り上げで、決済はあくまでビジネスの入り口だ。データを使って、広告やプロモーションによる送客につなげられる」と董路社長は話す。

周回遅れの日本、現金主義が壁

中国の上海。朝ご飯の豆乳を屋台で買うなら、スマートフォン(スマホ)は必須だ。店頭には「現金お断り」の貼り紙。利用者は看板に貼ってあるQRコードをスマホのアプリで読み込み、決済し、その画面を店の人に見せて商品を受け取る。仕組みはアリババ集団が提供する「支付宝(アリペイ)」と、騰訊控股(テンセント)の「微信支付(ウィーチャットペイ)」が多い。

アプリの使い方は簡単で、スマホのカメラで店側が提示したQRコードを写し、画面に現れたボタンを押すだけ。あるいは、利用者側のスマホに表示されるQRコードを店側がレジの装置で読み込めばおしまいだ。QRコードにひも付いた利用者の口座(アカウント)から店の口座へ自動的に送金される。

スマホの普及が一気に進んだ中国では、QRコード決済はほぼ「標準仕様」として利用者に受け入れられた。屋台のような小規模店舗にまで裾野が広がったことで、国際的にもスウェーデンなど北欧と並ぶ先端キャッシュレス社会を実現している。

翻って日本。QRコード決済が本格的なサービスとして盛り上がることはこれまでなかった。キャッシュレス化を推進する企業の多くは「ライバルは現金」(LINEペイの長福久弘最高執行責任者)と話す。盗難やニセ札が少ない、ATMの普及で現金を入手するのが容易といった事情が日本人の現金主義を強固にしているという指摘だ。

金融庁や経済産業省の調査によると、日本のキャッシュレス決済比率は2割程度で中国の半分にも満たない。QRコード決済を浸透させるには、手軽で便利という点を印象づける仕掛けが必要だ。

日本銀行の副島豊フィンテックセンター長は「決済手数料は企業間の競争で下がり、決済自体ではほとんど利益が出なくなる」と話す。「決済サービスを通じ、今までに無い利便性を提供できるか。新たなビジネスが生まれるきっかけにもなる」と指摘する。 (広井洋一郎、駿河翼)

[日経産業新聞 2018年7月26日付]

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