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米クアルコム、蘭企業買収「時間切れ」 米中対立が戦略に影響

(更新)

【シリコンバレー=佐藤浩実】米半導体大手のクアルコムによるオランダのNXPセミコンダクターズの買収は、両社が期限としていた25日中に中国当局からの承認の発表が無く、期限切れとなった。半導体業界の勢力図を一変させるはずのM&A(合併・買収)だったが、クアルコムは26日に断念すると発表した。米中の対立は大手メーカーの経営に抜本的な見直しを迫っている。

クアルコムの本社

「地政学的に難しい環境にある」。2018年4~6月期決算会見でクアルコムのスティーブ・モレンコフ最高経営責任者(CEO)は話した。企業が公正に競争する環境を整えるというより政治的な判断が働いたとの認識を示唆した。「世界の規制当局、特に中国とは良い議論をしてきたと思う」という言葉は皮肉とも受け止められた。

クアルコムにとって、16年10月に公表したNXPの買収は、社運を左右する大勝負だった。17年度の売上高が93億ドル(約1兆200億円)のNXPはエンジンの制御などに使う車載半導体で、独インフィニオンテクノロジーズや日本のルネサスエレクトロニクスをしのいで首位だ。

一方、クアルコムは223億ドルの売上高の大半がスマートフォン(スマホ)向けで、自動車ではナビゲーションや通信関連の半導体を手がける程度。買収は単純な規模拡大にとどまらず、電動化によって半導体の採用が増えるクルマの領域で主要プレーヤーに躍り出る一手となるはずだった。

スマホ市場が成熟する中で「培った技術を新しい領域で生かす」(モレンコフ氏)うえでもクルマへの本格参入には意味があった。しかし、独禁当局の手続きで最後に残された中国の壁を越えられなかった。

背景にハイテク分野での覇権を巡る米中の争いがあるのは明白だ。4月に米政府が中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)への制裁を始めた頃から雲行きが怪しくなっていた。半導体業界の関係者が「追加関税によるコスト増の比ではない。最悪のシナリオ」と口をそろえていた事態。クアルコムは440億ドルにのぼる買収を撤回し、26日にNXPに20億ドルの違約金を支払う。買収のため用意した資金は300億ドルの自社株買いにあてる。

中国は産業高度化に向けた長期戦略「中国製造2025」で、あらゆる産業の基盤技術となる半導体の自給率向上を掲げている。現状では中国国内の半導体の生産規模は世界の生産額の10~15%とされるが、この数字にはTSMC(台湾積体電路製造)や韓国サムスン電子の工場を含む。「中国企業の純粋な比率は5%ほどにすぎず、技術水準も2~3世代遅れている」(上海微技術工業研究院の丁輝文CEO)

自国の企業を育てるうえで、すでに強い米国企業がさらに巨大化するのは都合が悪いと結論づけているのかもしれない。7月上旬にはメモリー大手の米マイクロン・テクノロジーに対し、中国の福州中級人民法院が一部製品の中国での製造、販売の仮差し止めを命じる動きもあった。台湾企業との特許係争が表向きの理由だが、言葉通りに受け取る向きは少ない。

一方、半導体分野での対立はもろ刃の剣だ。米国企業の中国での売上高はiPhoneを有するアップルが約450億ドルで頭一つ抜けるものの、2位以降はインテル、クアルコム、マイクロンといった半導体企業がずらりと並ぶ。米企業はそれだけ多くの顧客を中国に抱えている。

中国企業のビジネスも米企業がいないと成り立たない。米企業との取引を制限されたZTEは事業継続が難しい状況に陥った。

7月半ばにインテルの社屋で開いた半導体の技術会議。米国の半導体メーカーで働く中国系米国人が多くいた。米中間の争いに戸惑い誰もが政治問題に触れないようにしていたが、一人の登壇者のスピーチに大きな拍手が巻き起こった。「人工知能(AI)や5Gの時代にイノベーションを起こす近道は国の垣根を越えた協業であるはずだ」

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