2018年11月19日(月)

WTO改革機運、動き出すか(The Economist)

The Economist
(1/2ページ)
2018/7/24 18:45
保存
共有
印刷
その他

The Economist

ジュネーブ湖のほとりに位置する世界貿易機関(WTO)の本部は、かつては国際連盟が使っていた。国際連盟はなくなってしまったが、その一因は当時の米国の孤立主義により機能不全に陥ったことにある。そして現在の入居者も、米ワシントンで下される決断に翻弄されている。

トランプ米大統領は、WTOの規定をかいくぐり、鉄鋼とアルミニウムの輸入品に対し追加関税を課した。これには、米国の同盟国からの輸入も含まれる。また、トランプ政権は自国が不公平な扱いを受けているとの理由から、WTO紛争処理の最終審に相当する上級委員会の委員の任命を阻止している。このため2019年以降は、審理ができなくなる可能性がある(編集注、上級委員の定数は7人で、各訴訟の判断は3人で決めるが、現在3人が任期満了で退任したままになっており、9月にさらに1人が任期満了に伴い退任するうえ、委員は自身と利害がかぶる紛争にはかかわれないため)。

このようにWTOが機能しなくなりつつある中で、米国は中国と貿易戦争を始めようとしている。米中は互いに数百億ドル規模の輸入品に追加関税を課しており、さらなる強硬手段に出る可能性をちらつかせている。

■中国がEUとWTO改革で合意

中国は16日のEUとの首脳会議でWTO改革で合意した。写真は右からEUのユンケル欧州委員長、李克強中国首相、トゥスクEU大統領=AP

中国は16日のEUとの首脳会議でWTO改革で合意した。写真は右からEUのユンケル欧州委員長、李克強中国首相、トゥスクEU大統領=AP

WTOは貿易紛争を解決し、報復措置の応酬といった事態を防ぐ役割を担っているはずだった。ところが今、自ら監督しているはずの世界貿易体制が崩れつつある中、おびえた傍観者かのようにみえる。自由貿易主義者が強い懸念を抱くのはもっともだが、絶望するのは早い。貿易体制を救う計画の大筋が今、見えてきたからだ。

トランプ氏の好戦的な態度からすると非現実的に思えるかもしれないが、前向きになれる理由が2つある。

第1は、米国の貿易政策の方向性を考えるのは大統領だけではないという点だ。欧州連合(EU)と日本はWTOの改革を巡り、トランプ政権ではあまり目立たない存在のライトハイザー米通商代表部(USTR)代表と協議を続けている。トランプ氏の攻撃的な発言ばかりがニュースの見出しを飾るが、ライトハイザー氏はWTOを見捨てるのではなく、抜本的に作り替えたいと考えている。大統領の「脅し」をうまく使えば、取引を成立させられるかもしれない。要するにアメとムチ作戦を展開すればいいということだ。もっとも、ムチの方(編集注、トランプ氏)は、自分にその役割が割り振られていることをあまり理解はしていない。

第2の理由は、米国が憤りの大半を向けている中国は、他国からも深い疑念を招いているという点だ。中国が01年にWTOに加盟したことで、欧米諸国は同国が市場経済を志向するようになると期待したが、そうはならなかった。それどころか、市場経済国間で起きるダンピングなどを巡る紛争よりも、はるかに大きな規模で貿易をゆがめてきたわけで、それはWTOの設計上、処理しきれるようなものではない。

EUや日本も米国と同様に、中国の重商主義を抑えたい考えだ。中国の国有企業や不透明な巨額の補助金は、市場をゆがめ、鉄鋼などのコモディティーの供給過剰をもたらしてきた。中国に進出した外国企業は厳しい規制に悩まされ、市場参入の見返りに知的財産を譲渡することを要求されてきた。だが既存のルールで、中国にこうした行為の責任を問うのは難しい。EUと日本、米国が協議して改革を実行できれば、多くの抜け穴を埋められる可能性がある。

つまり、中国政府がどれだけ市場を歪曲(わいきょく)しているか判断する手段を確立し、不正行為に関する情報収集を容易にし、適切な報復措置の範囲を定めようというのだ。「政府機関」の定義も定め、補助金に関する禁止事項を拡大する。さらに、原告側の立証責任も軽減する。中国の不透明な制度を考えると、現状では立証責任の負担が大きすぎるためだ。

  • 1
  • 2
  • 次へ

今なら有料会員限定記事もすべて無料で読み放題

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報