パナソニック、スタジアム演出も商機に

2018/7/24 11:30
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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

パナソニックがスポーツの試合場となるスタジアム向け事業に力を入れている。機器の単品販売が中心だったが、効果的な演出ができるシステムの企画・提案を始め、野球場では成果も出ている。政府はスポーツ産業の振興へ2025年までに20カ所のスタジアムを整備する構想を持つ。魅力的な会場づくりに貢献できることを売りにスポーツビジネスに食い込む。

スタンドの観客の目の前に巨大スクリーンを用意した(大阪府吹田市のパナソニックスタジアム吹田)

スタンドの観客の目の前に巨大スクリーンを用意した(大阪府吹田市のパナソニックスタジアム吹田)

「ニッポン!ニッポン!」。5月30日、パナソニックスタジアム吹田(大阪府吹田市)。日産スタジアム(横浜市)で行われたサッカーの日本代表チームとガーナ代表との親善試合を応援する約1000人の観客は、グラウンドにそびえ立つ幅16メートル、高さ9メートルのスクリーンに声援を送った。

720インチ相当のスクリーンは空気で膨らませ、ゴール裏のビジョンより大きな映像を高輝度のプロジェクターで投映した。このスタジアムで初の有料パブリックビューイングは市の催しで、8月中旬にも開く予定という。

企画したのはパナソニックが全額出資するシステム開発・販売会社、パナソニックシステムソリューションズジャパンの武藤雄太氏だ。

17年に入社した武藤氏は「スタジアム演出のプロ」。場内演出や観客動員の担当としてプロ野球のオリックス、楽天、日本ハムと渡り歩いた。オリックス所属時の08年、プレー中でもバッターの顔写真を大型ビジョンに映し、話題となった。日本ではプレー中は演出を控えるのが慣例だったからだ。

■切り札引き込む

武藤氏は米大リーグが開く場内演出の会議などに参加し、最新の趣向をつかむ。「スポーツチームのニーズをくみ取ってテクノロジーと組み合わせる」と抱負を語る。

武藤氏はスタジアムからスポーツビジネスを開拓するうえでの切り札。経営幹部を中心に外部から人材を引き込む取り組みを事業の現場にも広げた。

なぜスタジアムなのか。日本のスポーツ庁などによると、米国のスポーツ産業の市場規模は14年で49兆8000億円。欧州のプロサッカーのスター選手を「爆買い」して話題になった中国にも18兆1000億円(12年)の市場がある。日本は5兆5000億円にとどまっており、25年に15兆円に増やす計画だ。その中で自治体や関係省庁に制度面でのスタジアムの新設や改修の後押しを促す方針。娯楽やレジャーとしてのスポーツ産業の拡大を目指し、観戦の受け皿を増やす。

パナソニックには「スタジアム市場」の成功事例がある。

楽天の本拠地はパナソニックのシステムで映像や音響を一元管理する

楽天の本拠地はパナソニックのシステムで映像や音響を一元管理する

プロ野球の楽天生命パーク宮城(仙台市)では、場内アナウンスとともに11枚の大型ビジョンで様々な角度の映像が一斉に流れ、観客の興奮を誘う。本拠地の動員効果で、17年シーズンの楽天の1試合当たりの観客数は16年比10%増と伸び率は全12球団でトップクラスだった。

パナソニックは16年にビジョンやスピーカーを一元管理するシステムを納入した。様々なメーカー製のビジョンなどを場内の一角で集中制御し、試合の展開に応じて映像や音響を操作する。

演出の基本的なノウハウも球場の従業員に指南した。「米国のような『ボールパーク』を実現したい」との球団の意向を受け、システムソリューションズのエンターテインメントシステム部総括担当の中山正智氏らが米国に飛んでノウハウを持ち込んだ。

VIP席でガラスに映像を投影したりグラウンド上の音をリアルに再現した(16年の北海道日本ハムファイターズでの実験)

VIP席でガラスに映像を投影したりグラウンド上の音をリアルに再現した(16年の北海道日本ハムファイターズでの実験)

交流サイト(SNS)経由で観客が撮った映像を場内のビジョンに流したり、過去の場面を配信したりする。スマートフォンのアプリで客席から食べ物や飲み物を注文・決済し、売店では商品を受け取るだけで済むシステムも納めた。札幌ドーム(札幌市)では16年にガラスに選手の動画が映ったり、打球音が響いたりする特殊なVIP席を試験的に設けた。

場内で流す映像広告のクラウドサービスも開発した。通常のスタジアムでは場内で担当者がシステムを操作して広告を流すが、クラウドで管理することにより広告の空き状況などを把握しやすくなり、効率よく営業ができる。「スポンサー収入が伸び悩むチームにテクノロジーを役立てる」(中山氏)。サッカーや野球、バスケットボールなど各種スポーツの会場に流す広告を一括で制御するシステムを目指す。

■成熟社会に照準

スタジアム関連事業はパナソニックの企業向けシステム部門に含まれ、同部門の18年3月期の売上高は1兆1000億円と全体の14%を占める。スタジアム向けの売上高は明らかにしておらず、収益への直接的な影響も小さいとみられる。

だが社会が成熟すれば、娯楽や余暇の一環でスポーツにお金をかける消費者が増える。スポーツを楽しむことに貢献しているとの企業イメージが広がれば、消費者の間でブランド価値が上がることが期待できる。

パナソニックとスポーツビジネスの関係では五輪が代表的。24年のパリ大会まで最高位のスポンサーである「TOP(ザ・オリンピック・パートナー)」を契約済みで、場内や放送用の機材を納入するとともに、開催前後の期間を中心にブランドを大量に訴求する。

一方、スタジアム向けはファンとの継続的な関係づくりが中心となり、五輪に比べると地道な取り組みになる。

機器を売って終わりという「モノ売り」のイメージがつきまとうパナソニック。サービスを手厚くして顧客との接点を増やすモデルへの転換を掲げる。スタジアム事業はその戦略を実践する格好の舞台になる。

(大阪経済部 藤野逸郎)

[日経産業新聞 2018年7月24日付]

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