2019年8月21日(水)

地方創業投資、IPOに頼らない フューチャーVC

2018/7/24 6:30
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独立系ベンチャーキャピタル(VC)のフューチャーベンチャーキャピタルが地方企業への投資を積極化している。各地の地域金融機関と連携してファンドを組成し、新規株式公開(IPO)に頼らない新たなVC投資の手法を模索する。東京に注力することの多い既存のVCと違い、地方に目を向ける理由は何か。松本直人社長に聞いた。

「IPOに頼らず、景気に左右されないファンドを目指す」と話す松本直人社長

「IPOに頼らず、景気に左右されないファンドを目指す」と話す松本直人社長

――設立は1998年、本社は京都市ですね。

「創業者の川分陽二氏はもともと住友銀行(現三井住友銀行)出身で、独立系VCの日本アジア投資を経て当社を設立した。銀行の融資は『雨の日に傘をささない』と言われるが、企業に必要なタイミングで資金を提供したいとの思いがあった」

――地方に着目するようになったきっかけは。

「2001年に石川県知事から地元にVCを誘致したいとの話があった。もともとあった地銀系VCが撤退し、地域にリスクマネーを供給できなくなったという。そこで当社は石川に事務所を開設して創業間もない企業に投資を始めた。その後、岩手、三重、青森県などからも声がかかり、08年までに十数個のファンドを立ち上げた」

――運用成績は。

「08年にリーマン・ショックもあり成績は振るわなかった。反省点は地方の優良企業が必ずしもIPOで評価されるとは限らないこと。VCとしてリターンを出すには投資金額の100倍になるようなホームラン案件が必要。しかし結果は市況に左右されるし再現性に欠ける。VCとして継続して成長できるビジネスモデルの必要性を痛感した」

――現在はどのような投資戦略に変えたのですか。

「IPOによらなくても一定のリターンを確保できる方法として種類株式を活用する。会社の設立時に1000万円を出資、数年後にファンドが1500万円で会社に自社株買いを請求できる。自社株買いの原資は利益剰余金で、ある程度事業が軌道に乗ればリターンを得ることが可能だ」

「新たなファンドは東日本大震災の翌年の12年、盛岡市で始めた。震災で職を失った人の創業時に投資するというもの。現在は地域金融機関や地方自治体と共同で組成する創業支援ファンドは16本、39億円に増えた。金融機関はお金を出し、当社がノウハウや人材育成を手がける。地域金融機関にとっては新たな融資先を開拓できる」

――成果は出ていますか。

「盛岡の起業ファンドは8社に投資して6社で回収した。すべて元本以上の金額で回収し、平均で1.47倍になっている。全体で130社ほどの企業に投資しているが、倒産したのは1件もない。IPOを目的としないファンドだが、順調に成長しIPOを目指す企業も出始めている」

――今後の展開は。

「地方には課題も多いが、社長のあきらめない強い気持ち、周囲を巻き込める共感力があれば成功確率を高められる。最近では地方の事業会社からスタートアップに投資するCVCをつくりたいという相談も増えている。こうした事業会社と共同で設立するCVCファンドを含めて、今後は100ファンドをつくり、年間1000社に投資できる環境を整えたい。IPOに頼らず、景気に左右されずリスクマネーを供給し続けられるVCをめざす」

■ ■ 記者の目 ■ ■

日本のスタートアップ投資は近年、大型化しているが、地域格差は開いている。調査会社のジャパンベンチャーリサーチによると2017年の国内スタートアップの資金調達額は2791億円と前年比21%増えたが、調達社数は20%減った。地域別にみると、調達額、調達社数ともに東京都が全体の75%を占めた。

背景には東京に起業人材や投資家、経営ノウハウなどの情報が集中していることがある。ただ、名古屋市に本社を置く健康機器のMTGが最近2000億円を超える時価総額で上場するなど、地方にも成長の芽はある。

フューチャーベンチャーキャピタルが愛媛県で手がけたファンドでは投資先11社のうち6社が上場した。松本社長は「上場ノウハウを持つ人材が他社に移り、地域全体で意識が高まった」と話す。ただ従来の投資は上場が視野に入ってきた中堅企業への投資が多く、「刈り取り」の側面も強かった。起業段階から「種をまく」活動は地道で、成果が出るまでには時間がかかるが、日本のスタートアップの裾野を広げるには欠かせない視点だ。(鈴木健二朗)

[日経産業新聞 2018年7月24日付]

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