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都市対抗野球にみた「野球の原点」

編集委員 篠山正幸

テンポよく投げ込む投手に、しばしばみられる一塁へのヘッドスライディング――。プロ野球と同じような年格好で、技術のレベルも肉薄するものがありながら、社会人野球の試合進行のスピード感と「密度」は高校野球に近い。13日から開催されている都市対抗野球に、野球の原点をみた。

日ごろ、プロ野球を取材していて、たまに高校野球の現場に赴くと、一球一球のテンポが早すぎて、うかうかしているとスコアの記入が遅れてしまうことがある。

それだけ投球の間合いが違うのだ。社会人野球の投手はそこまでは早くないが、総じてプロの投手よりテンポがいい。

社会人野球ではテンポよく投げ込む投手が少なくない(20日の試合で完封した三菱重工神戸・高砂の藤井)=共同

その結果、試合時間も短く、おおむね3時間内に収まり、22日の準々決勝まで28試合の平均では2時間40分ほどで終了している。

単純に比べられるものでもないが、プロ野球は球宴前の平均でセ・リーグが3時間16分、パ・リーグが3時間17分だった。長年の課題である「時短」が達成されるどころか、セは前年に比べ4分、パは3分長くなっている。

もちろん、ファンにとって試合時間が短い方がいいとは限らない。以前、読者の方からのお便りに「3時間は試合をしてもらわないと、物足りない」という意見があった。北関東から東京ドームの観戦に訪れ、隣接する東京ドームホテルに1泊するというそのファンは、あまりにあっさり終わってもらっては泊まりがけで出かけてきたかいがない、というのだった。

確かに問題は試合の中身であって、時間の長短はその次の話かもしれない。

新鮮な社会人野球のテンポのよさ

それにしても、プロ野球ののんびり感に慣れた身には、社会人野球のテンポのよさは新鮮に感じられた。

逆に、プロ野球の投手もアマチュア時代はポンポン投げ込んでいたはずなのに、なぜああまで遅くなってしまうのか、という疑問もわいてきた。選手のほとんどは高校、あるいは大学、社会人という道を通ってきている。そして社会人まではポンポン投げていたはず。それがいつの時点で、なぜスローダウンしてしまうのか。

ブリヂストン時代に補強選手として都市対抗に出場するなど、社会人野球の経験もある評論家、権藤博さんによると、プロでは監督、コーチが「丁寧に投げろ、大事にいけ」と指導するあまり、一番大事なテンポを失ってしまうのだとか。

今でこそタブー視されなくなったが、かつては2ストライクと追い込んでからの「3球勝負」で打たれたら、コーチや監督に「なぜ、1球はずさないのか」と大目玉を食らったものだった。

投手の本能として、どんどん投げ込みたいという気持ちは誰にも備わっている、と権藤さんは話す。特にプロ野球に入る投手ともなれば、その「攻撃性」はなおさら高い。しかし、プロで指導を受けているうちに、だんだん"去勢"されてしまうのだという。

社会人の投手の投げっぷりをみていると、プロもできないはずはないのに、と思えてくる。

一発勝負というトーナメントの特性もあってか、必死さが伝わってくるプレーも多い。2死走者三塁など、セーフになったら1点という状況で、内野ゴロを打った打者走者が一塁にヘッドスライディングをするという光景も、都市対抗ではごく当たり前だ。

地域や会社を背負った選手の覚悟

危険なプレーでもあり、「セーフ」をもぎ取る方法として正しいかどうかもわからないので、プロではむしろやってはいけないプレーに属するのかもしれないが、これが最後の戦いになるかもしれないと思うとき、無意識に飛び込んでしまうのだろう。地域を代表し、会社の看板を背負った選手たちの覚悟がそこにある。

都市対抗の現場には地域も企業も元気だった時代の日本のなごりが感じられる=共同

企業風土や雇用環境が一変し、社員の副業を認める会社も出始めており、今後は「愛社精神」というものもどこへやら、ということになりかねない。そうした中、都市対抗野球の現場には地域も企業も元気だった時代の日本のなごりがあり、ついノスタルジーに浸ってしまう。

ビデオによるプレーの検証がないということにも、考えさせられるものがあった。プロ野球のようにいちいち試合を止めて、判定の正確さを期すという進め方もあるだろうが、野球の原点という意味では「一審」である審判の判定を最終のものとして従う方が、正統といえる。

取材した1回戦の試合に、本塁打かどうか微妙な当たりがあり、「あ、これはリプレー検証だ」と記者席で思わず腰を浮かしたが、「いや、ここは都市対抗の現場だった」と我に返った。

一投一打に懸かっているものの重さはプロ野球もアマチュアも変わりない。誤審は我慢ならないという気持ちも同じだろう。だが、その不条理を宿命として受け入れ、忍従することもスポーツにおける人生修養の一環とされた時代があった。都市対抗はそんなことも思い出させてくれた。

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