アートローグ、芸術とビジネスの懸け橋に

2018/7/23 6:30
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「絵画でたどるパンの歴史」「注目の展覧会とオススメランチ」。アート関連の情報サイト「アートローグ」には、芸術に関心が薄い人でも思わず読みたくなるコラムが所狭しと並ぶ。サイトと同名のスタートアップ、アートローグ(大阪市)の鈴木大輔社長(40)は、疲弊する国内アート業界を活性化するためにはビジネスの視点が重要と説く。

情報サイト「アートローグ」には展覧会の情報やアートにまつわるコラムを掲載する

情報サイト「アートローグ」には展覧会の情報やアートにまつわるコラムを掲載する

アートローグのコラムが面白いのはなぜか。執筆陣は新進気鋭の作家からギャラリーのオーナー、海外在住のライターなど多彩な顔ぶれだ。鈴木氏のコラムもある。「アートをカジュアルに楽しんでもらいたい」という考えのもと、育児やファッションに関するものなど、アートに興味がなくてもつい読んでしまうような記事も掲載しているのが特長だ。

さらに全国各地で開催される展覧会のスケジュールなど、芸術のポータルサイトとしての情報も充実している。

「いつでも、誰でも、どこでも芸術を楽しめる仕組みをつくりたい」。鈴木氏は約10年前、美術館や博物館のキュレーターが作品について説明する「ギャラリートーク」を動画撮影し、インターネットで配信するサービスを思いついた。このサービスがあれば、体が不自由だったり、近くに美術館がなかったりしても、作品を楽しめると思ったからだ。

大阪市立大学で、研究事業の一環としてギャラリートークの取材を開始した。だが、いざ美術館に動画撮影を依頼すると、話がなかなか進まない。「前例がないと、どれだけ言われたことか」。大阪市など関西の身近な美術館から説得にまわった。

協力者を徐々に増やしていき、ようやく2012年に「キュレーターズTV」と名付けたサイトを開設。動画の配信を開始した。13年にはアートローグの名称で一般社団法人を設立した。

デザイナーや動画クリエーターといった肩書を持つ鈴木氏。20代の頃、CDのジャケットやポスターを集める趣味が転じてデザイナーを志したのが、アート業界に入るきっかけだった。

鈴木大輔社長

鈴木大輔社長

実際に仕事をしてみると、国内のアート業界への危機感が募ってきた。多くの美術館は税金で運営されている。人口減少が続き、税収が減ると美術館は立ちゆかなくなる。特に地方の美術館は疲弊してきており、「なんとかしないといけないと思った」

また、アート業界には新しいものをなかなか受け入れない体質があり、物販などのスモールビジネスばかりが展開されている。鈴木氏は「アートをビジネスの種と考える人が少ない」点も、飛躍しない理由の1つだと考えている。

アートローグが目指すのは、アートをビジネスと結びつけ、収益化するサービスの提供だ。例えば、世界最高級の日本酒のラベルに才能あふれる現代アーティストが描いた作品を採用する取り組みを15年から始めた。価格は6万円(税別)と4万円(同)と、2種類の日本酒を販売している。

芸術家は森美術館の南條史生館長を委員長とする選定員会が選ぶ。この事業を通して、優れた芸術家を世に送り出すと同時に、日本酒という日本の伝統を世界に広げる狙いもある。

アートローグは17年7月に株式会社化した。今年6月にはマネックスグループの松本大会長や南條氏など計8人の個人投資家から1500万円を調達。メディア事業やアートを使ったビジネスを生み出すためのコンサルティング事業などに力を入れる予定だ。

さらに鈴木氏が描くビジョンの1つに、美術館をメディアとしてコンテンツを発信するという計画がある。仮想現実(VR)技術などを使い、遠くにいる人でも美術館の中に実際に入ったかのように、作品や館内の雰囲気を楽しんでもらおうというものだ。

「美術館に人がこなくなる」と批判されることもあるが、鈴木氏は「美術館自体や所蔵している作品の認知度を高めないと、そもそも人は来ない」と反論する。特に、人口減が進み訪れる人も少なくなった地方の美術館などに活用できないか検討している。

「日本にとって最大かつ最後のチャンス」と考えるのは20年の東京五輪だ。世界中から日本に多くの人が訪れるイベントを大きな商機にするために、「日本の美術館や芸術作品の鑑賞を1つの訪問目的としてもらえるように情報発信をしていきたい」と意気込む。

国内でなかなかビジネスとして花開いてこなかったアート業界。鈴木氏は教育や旅行、テクノロジーとの融合など、さまざまな展開ができると考える。「アートビジネス」を切り開く挑戦は、始まったばかりだ。 (田辺静)

[日経産業新聞 2018年7月23日付]

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