リーダーも「世につれ」 自信を持って力発揮して
ダイバーシティ進化論(出口治明)

ある国内急成長企業の話。社員の多くを中途採用したところ、会議のたびに「前の職場ではこうだった」と出席者の懐古談披露が続き長時間化しがちだった。ある日、トップが英語での会議を指示。すると皆、発言趣旨の最低限だけ英訳を暗記してきて発言するようになり、会議時間は5分の1に縮まったという。
人の意識が変わるときというのはそんなもの。「仕方ない」と変化を受け入れ、適応していくのだ。状況が変わらないなら従来通りの方が楽に決まっている。「意識が変われば制度が変わる」のではない。「制度が変われば自然に意識も変わっていく」のだ。
だから僕は、女性活躍推進にクオータ制(役職の一定割合を女性に割り当てる制度)の導入を提案しているわけだが、いざ女性に管理職への昇格を打診すると固辞するケースが多いという。「男性は『やってみます』と応じるのに……」との愚痴も聞くが、受け答えの違いを性差の問題ととらえ、女性たちに意識改革が必要と説くのは浅はかだ。
男性は身近で「やってみます」と応じる姿を見てきたから、まねしているだけ。女性が昇格を固辞しがちなのは女性のせいではない。自身と同じ立場の人がいないのは怖いものだ。ロールモデル不在に加え、戦後の日本は製造業の工場モデルで専業主婦の存在を前提に「メシ・フロ・ネル」ができる人を管理職にしてきた影響が大きい。「あんな生活はとても無理」と女性たちがひくのは当然だろう。
だがリーダーも「世につれ」である。局面によって働き方も含め、タイプを変える必要がある。時代も産業構造も変わった。今はニーズが多様化し、何がビジネスで当たるか分からない時代。知恵を絞るしかない。様々な人がいろいろな意見を出せるようにダイバーシティ(人材の多様性)の推進が求められている。
サービス産業のユーザーは世界中どこをみても女性が6~7割を占めるという。女性たちの「普通の感覚」が役立つチャンスが広がっている。世界経済フォーラムの男女平等ランキング(ジェンダー・ギャップ指数)によると、17年の日本の順位は144カ国中114位。先進国では圧倒的に低い。管理職も学校の部活のリーダーも、適材適所を考えてメンバーの力を引き出す役割は同じこと。女性活躍推進法の追い風もある。女性たちには自信を持って力を発揮してほしい。

[日本経済新聞朝刊2018年7月23日付]
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