2018年11月18日(日)

フィリップ・モリス、日本で三重苦 加熱式・法規制…

2018/7/20 14:00
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たばこの巨人フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)が苦戦している。19日の決算発表で2018年の利益見通しを下方修正した。不振の理由は加熱式たばこで金城湯池だった日本だ。日本たばこ産業(JT)などの反撃を受けるほか、18日に成立した受動喫煙対策の法律や10月からのたばこ増税も頭痛の種になっている。3兆9千億円の日本のたばこ市場で加熱式は頼みの綱。それだけに低価格品の投入で巻き返しを図るが、消耗戦に陥る可能性もある。

■シェア低下止まらず

「明らかに我々の当初の期待を大きく下回っている」。PMIのアンドレ・カランザポラス最高経営責任者(CEO)は19日発表した18年4~6月期決算で、日本市場の現状を嘆いた。

フィリップ・モリスの収益に不透明感が出ているのは、成長のけん引役と位置づける加熱式たばこ「アイコス」の日本市場での不振だ

フィリップ・モリスの収益に不透明感が出ているのは、成長のけん引役と位置づける加熱式たばこ「アイコス」の日本市場での不振だ

売上高は前年同期比12%増の77億2600万ドル(約8700億円)、純利益は23%増の21億9800万ドルと一見好調にみえる増収増益の業績。だが、中身をひもとくと加熱式の出荷量は大幅に伸びたが紙巻きの落ち込み、全たばこの出荷量は横ばい。東南アジアや欧州などでの価格引き上げに救われた格好だ。

実際、PMIは18年通期の利益見通しを下方修正。株価は反応し前日比1.5%下落した。年初からの下落率は23%に達した。収益に不透明感が出ているのは同社が成長のけん引役と位置づける加熱式たばこ「アイコス」の日本市場での不振だ。

日本を含む東アジア・豪州地域の4~6月期の売り上げは7.1%増えたが、営業利益ベースでは2.4%のマイナス。日本で加熱たばこで使う機器の値下げや販管費などがかさみ収益が悪化した。

「加熱たばこ」とは専用機器で葉タバコを加熱することで発生する蒸気を吸う。ニコチンが溶けた液体を加熱して吸う「電子たばこ」もあるが、日本では厚生労働省が所管する医薬品に分類されており、どのメーカーも日本では販売していない。

PMIは他社に先駆けて16年に日本全国でアイコスの販売を開始。若年層を中心に人気に火が付き、瞬く間に独壇場を築いた。

たが、日本の喫煙者の4割を占める50歳以上への売り込みがうまくいっていない。その間にJTが一部地域で「プルームテック」の販売を開始。6月からは全国に投入しPMIの牙城を崩し始めた。英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)の「グロー」も昨年10月の全国販売後、着実に売り上げを増やしている。

加熱式の国内シェアはかつてPMIが9割を占めていたが、足元で8割に低下。残りをBATとJTで分け合うまでになった。野村証券の藤原悟史アナリストは「JTの営業体制の強さなどを考えると、シェアは今後さらに変わっていくだろう」と指摘。国内たばこ市場に占める割合が2割を超えた加熱式の争いは過熱している。

「ずっと楽しみにしていた」。静岡市の会社員の男性(27)は、JTがプルーム・テックを全国展開するや、すかさず購入した。もともと昨夏からPMIのアイコスを使っていたというが、今は両製品を併用。「軽い吸い口が魅力」という。

■法規制で狭まる市場

日本のたばこ市場は紙巻きが縮小する一方、加熱式は伸びている。日本たばこ協会(東京・港)によると、17年度の紙巻きたばこの販売本数は前年度比13.4%減の1455億本。5年前から約3割減った。英調査会社のユーロモニターによると、加熱式の国内の17年の市場規模は前年比2.8倍の約53億ドル(約6000億円)に拡大。22年には23%増える見通しだ。

PMIにとって、加熱式の最大市場は日本。同社は将来、紙巻きたばこからの撤退を明言しているだけに、PMIの業績は日本が命運を握っているといっても過言ではない。

低迷を受けてPMIは加熱式のてこ入れを急ぐ。日本で在庫調整に踏み切るほか、今年10月のたばこ増税をにらみ年内に低価格の加熱式たばこを発売する。6月にアイコスの専用機器の販売価格を3割弱引き下げ7980円(税込み)にしたばかりだが、矢継ぎ早の打開策が欠かせないと判断した。

PMIを脅かすのはJTなどライバルだけではない。「居酒屋にも気兼ねなく行ける」。嫌煙家の30代女性は18日に成立した改正健康増進法を喜ぶ。

受動喫煙対策を強化する同法は病院などを含む公共機関での喫煙を原則禁止。20年からは事業所や飲食店(100平方メートル以下の個人店など除く)でも禁煙となる。喫煙には煙が漏れない専用室が必要で、紙巻きも加熱式も一律規制される。

世界保健機関(WHO)の4段階の基準で、日本の受動喫煙対策はこれまで最低レベル。裏を返せばPMIなどたばこメーカーにとって日本は聖域の一つだったが、それも消えつつある。

10月に控えるたばこ増税も今後の注目点の一つだ。

現行制度では、加熱式にかかる税率は紙巻きに比べて低い。製品ごとの違いはあるが、プルーム・テックの場合は1箱当たりにかかるたばこ税は紙巻きより200円超安い。「加熱式の収益性の高さの一因」(野村証券の藤原アナリスト)との見方が多い。

アイコスとプルーム・テックの専用たばこは現在、1箱460円、グローは450円と420円。今後のたばこ増税を踏まえて値上げに踏み切る動きも出てくるとみられる。設定価格次第ではシェアにも影響を与えそうだ。

■たばこ一本に託す

成長余力がある加熱式は紙巻きに比べ、味や機器の機能で製品ごとの違いが出やすい。例えば、JTのプルーム・テックと、BATのグローは連続して吸えるが、PMIのアイコスは一本吸うごとに充電が必要だ。

葉タバコの加熱方法も違う。アイコスとグローは数百度の高温で葉タバコを熱するが、プルーム・テックは30度程度と低温だ。高温の方がより紙巻きに近い味に仕上がり、こうした違いは消費者がシチュエーションなどで使い分けるという状況も生んでいる。

たばこ市場の縮小を踏まえJTはかつて食品など多角化にかじを切ったが、寺畠正道社長は加熱式などのたばこ事業に成長を託す考えだ。たばこ以外の加工食品と医薬事業は、全体利益に占める割合は数%。「新規分野に3年以内に手を出すことは考えていない。加熱式などのプライオリティーが一番高い」(寺畠社長)という。

国や自治体の規制でも都では、紙巻きは原則屋内禁煙だが、加熱式は専用室を設ければ吸うことが可能。苦境のなかでも、各社は間隙を縫って加熱式に活路を見いだしたい考えがにじむ。

成人男性の8割がたばこを吸わず、日本で習慣的に喫煙する男性は20年前の5割から3割に減少した。限られたパイの奪い合いは消耗戦に突入する可能性もある。(湯前宗太郎、ニューヨーク=平野麻理子)

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