2018年8月21日(火)

「働き方改革」にIT活用の極意

コラム(ビジネス)
ネット・IT
2018/7/20 11:30
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 働き方改革関連法が国会で成立した。人手不足に悩む企業にとって「働き方改革」で生産性を高めることは重要な経営課題で、様々な知恵を絞っている。IT(情報技術)各社はこの流れを新たな商機ととらえ、人工知能(AI)などの新技術を駆使した製品やサービスの提供に動いている。

ペーパーレス化を進めれば書類の山を減らすことができる

ペーパーレス化を進めれば書類の山を減らすことができる

■テレワークを使いやすく

 自宅で子供の面倒をみながら働くなど、職場以外で仕事をする「テレワーク」の仕組みを導入する企業が増えてきた。子育て世代が力を発揮するために重要な取り組みだが、導入企業からは「管理者が社員の勤務実態を把握しにくい」などの声も上がっている。

 テレワークでは社員が実際に働いた時間を自己申告するのが一般的。勤務の開始や終了を管理者にメールで知らせたり、1日の業務内容を日報にまとめたりといった手間がかかる。管理者と働く人の両方にとって、使いづらい面がある。

 キヤノンITソリューションズ(ITS)は、こんな課題を「顔認証技術」で解決できるクラウドサービスを提案する。ポイントは働く人の勤務実態の「見える化」だ。

 ノートパソコンなどが内蔵するカメラの映像をもとに、社員の在席と離席の状態をシステムが自動的に判別する。このデータは勤務実績として記録するとともに、社員ごとに日別や週別、月別で集計することも可能。そのグラフを管理者が見て「勤務中なのに席を外しがちだ」「本来の勤務時間が終わっても、まだ働いている」といった実態を正確に把握できる。

■社員の能力見極めにも

 テレワークで作業する社員が「見積書の作成」や「会議資料の作成」といった業務内容を選択すると、費やした時間を業務ごとに集計する機能もある。「会議資料を作る効率は良いが、見積書づくりは苦手だな」など、社員の実力を見極めやすくなる効果もある。

 仕事中のパソコン画面のスクリーンショットは定期的にクラウドへアップロードされ、勤務状況の証明になる。ITサービス事業部の加瀬弘充氏は「日報作成などの手間が省ける」と説明する。

 テレワークを取り入れる際に多くの企業が懸念するのが情報漏洩だ。キヤノンITSのサービスでは、社員以外の第三者がパソコン画面を見る「のぞき込み」や、社員に代わってパソコンを操作する「なりすまし」も防ぐことができる。

 カメラ映像で本人以外の顔を検知すると画面を真っ黒にするとともに、管理者へ自動的にメールで通知する。その瞬間の映像と画面のスクリーンショットも記録して、管理者は「誰がどんな情報を見ていたのか」を即座に確認できる。こんな仕組みを備えた安心感を前面に打ち出し、各社に導入を呼びかけている。

■単純作業はAIにお任せ

 単純作業はAIなどに任せ、社員が営業や企画提案などに多くの時間を割けるような体制をつくることも働き方改革の大きなテーマだ。そこではパソコンを使った定型書類の作成やデータ入力などを自動化する「RPA」が力を発揮する。富士ソフトはRPAとスマートフォン(スマホ)を組み合わせ、自宅や外出先から出勤簿の作成や経費精算などができる「モバイルRPA連携」のサービスを始めた。

 利用者は米マイクロソフトの「スカイプ フォー ビジネス」やLINEの「LINEワークス」といった企業向けの対話アプリを使い、RPAにシステムの操作を自由に指示できる。

 交通費を精算する場合は「交通費精算 2018/07/19 1000」といったメッセージを送信する。送られたメッセージの内容をRPAのソフトウエアロボットが自動で確認し、システムにログインして代理で操作する仕組みだ。移動中などの隙間時間に「雑用」ができるようになり、外出が多い社員の業務の効率化につながる。

 テレワークやRPAを効率的に導入するには、紙の書類の電子化も重要だ。業務用スキャナーのPFU(石川県かほく市)はペーパーレス化の支援サービスとして、高精度な光学式文字読み取り装置(OCR)の機能をクラウドで提供する。

 同社の「スマートキャプチャーサービス」はAIを活用し、書類の文字を読み取る。複合機などで書類を読み取ってPDF形式の画像データでクラウドにアップロードすると、AIが書類の文字を認識してデータ化する仕組みだ。利用者は読み取り結果をウェブ上で確認し、必要に応じて修正できる。

 第二インテグレーションマネジメント事業部担当部長の浦知洋氏によれば「現時点の対象は印刷文字だが、今秋には手書き文字への対応も予定している」という。

 働き方改革で発生するIT(情報技術)関連の需要は大きく、各社は強い期待をかけている。調査会社のIDCジャパン(東京・千代田)の調べでは、2021年には働き方改革関連の国内ICT(情報通信技術)市場の規模が2兆6622億円に達する見通しだ。

 分野別の成長率はシステム開発などの「ITサービス/ビジネスサービス」が19.8%、RPAやモバイル機器管理ツールなどの「ソフトウエア」が11.9%、スマホや仮想デスクトップ向けのノートパソコン、サーバーなどのハードウエアは3.7%、通信サービスは2.6%を見込む。

■業務プロセスの見直しも不可欠

 テレワークなどの導入に向けた基本的なハードウエア環境は整っているが、生産性の向上や柔軟な働き方を実現するためのシステムの開発やソフトの導入は、まだ発展途上だ。その分、伸びしろも大きいため、今後の市場拡大をけん引するとみられる。

 ただし、ITの導入が働き方改革の成功に直結するわけではない。日本企業は欧米企業に比べて意思決定のプロセスが複雑なことが多いとされる。そんな業務手順の複雑さが効率の低下を招いているとの指摘もあり、これを放置していては問題は解決しない。

 ITは働き方改革を支援する道具にすぎない。社員一人ひとりの働き方の質を向上して生産性を高めるには、無駄な作業やボトルネックとなっている部分を丁寧に洗い出す「業務プロセスの見直し」も欠かせない。

(企業報道部 中島募)

[日経産業新聞7月19日付]

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