世界中で進む自動運転車の開発競争は、100年以上続いた自動車産業の秩序を一変させるかもしれない。誰がその頂点に君臨するのか――。自動車大手にIT(情報技術)企業を交えた「異種格闘戦」の行方に注目が集まっている。中国でその座を虎視眈々(たんたん)と狙っているのが、ネット検索最大手の百度(バイドゥ)だ。検索の本家、米グーグルをまねたようなソフトウエア戦略に加え、数々の布石を打っている。
2017年4月に発足した百度の「アポロ計画」は、自動運転車の開発を加速させるため、業界の垣根を越えた連携を促すオープンソース型のプラットフォームだ。
わずか1年余りで、自動車メーカーやサプライヤー、半導体メーカーなど100社以上が集まった。
分野横断の大連合を作ったことで、百度は得意とする人工知能(AI)とソフト開発に集中できる。知見のないハード機器や自動車部品はパートナーに任せられるからだ。
百度は自動運転向けに15億ドル規模の投資ファンドも設立し、スタートアップ企業への投資も進めている。
■アポロは自動車業界のアンドロイドか
百度が立ち上げたアポロではデータやオープンソースコードなど多くのツールが提供されており、開発者は無料で利用できる。
この手法は米グーグルが10年前の07年に立ち上げたスマートフォン(スマホ)向け基本ソフト(OS)のアンドロイドに似ている。グーグルが米アップルの「iPhone」への対抗策として打ち出したものだ。
グーグルは自らスマホを発売するのではなく、ソフトに特化した。アンドロイドでは社外の開発者が互換性のあるアプリを開発しやすくするアプローチが奏功し、アンドロイドのシェアは急速に拡大した。米調査会社ガートナーによると、17年の世界のモバイル市場でのアンドロイドのシェアは86%で、10年前のほぼ0%から大きく伸びた。
アポロ計画の狙いも、グーグルのアンドロイド開発とよく似ている。メーカー各社がOSを無料で使えるようにし、業界標準にしたいと考えているのだ。
百度はアポロを自動運転車の「頭脳」に据え、自動車メーカーがソフトウエアよりも、クルマの生産やブランド戦略に集中できるようにしたいと考えている。
この手法は細分化が進んでいる中国の自動車部品業界でとりわけ魅力的だ。オープンソース化により、中国の自動車サプライヤーは研究開発費を増やすことなく自動運転車を組み立てられるようになるからだ。
■データ不足を補完
百度アポロのネットワークを生かし、ライバルに後れをとっている運転データに対処できる。
公道実験やシミュレーションから得られる運転データは、自動運転技術の開発に欠かせない。自動運転車を誘導するアルゴリズムは蓄積されたデータを使って訓練するからだ。百度はマップの生成やAIに関しては豊富な専門知識を持っているが、グーグル傘下のウェイモや米テスラと比べ、実際の運転データの蓄積では劣っている。
ところが、百度の広範な提携パートナーは収集データを百度のオープンソース型データセットに提供してくれるため、百度は大量のデータにアクセスできるようになった。
百度は3月、アポロにオープンソースのデータセット「Apollo Scape(アポロスケープ)」を追加した。そのデータ量はKitti(キッティ)やCityScapes(シティスケープス)といった他のオープンソースのデータセットの10倍以上に及ぶという。
アポロスケープは「画像セグメンテーション」という技術を使ってビデオ画像をピクセルごとに分割し、精緻な処理を可能にする。自動運転車が周囲の物体や道路標識を処理できるようにするために、画像は「意味付け」される仕組みだ。
これにより車線の境界を識別し様々な走行ルール(黄線と白線、実線と破線)を判断できる。
このセグメント化された画像(左の色付けされた画像)は自動運転車が走行可能な範囲を認識し、前方の危険を検知できるよう、クルマや歩行者、自転車、建物、信号など26種類に意味付けできる。
さらに、データセットに含まれる道路状況(雪や雨、霧など)が多様であればあるほど、自動運転車はより複雑な状況に対応できるようになる。道路が雪で完全に覆われていたり、暗闇だったりしても、道路の明白なイメージを構築できるからだ。