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習政権、米批判控えめの真意

The Economist

米国が中国に仕掛けた貿易戦争は、長期に続く過酷なものになるかもしれないが、火ぶたが切られてわずか1週間で、既に興味深い特徴が表れている。従来の中国なら、けんか腰で相手を威嚇するが、少なくとも今のところはそうした言葉の武器を使うつもりはないようなのだ。いつもの共産党のプロパガンダ、もっと言えばたった数週間前の口調とは大違いだ。

数週間前の中国側の姿勢は強硬だった。米ウォール・ストリート・ジャーナルによると6月21日、習近平(シー・ジンピン)国家主席は主に欧米企業の幹部20人と会合した際、トランプ米大統領の懲罰的な関税には容赦なく対抗すると約束していた。米国による追加関税の第1弾は7月6日、中国から輸入される340億ドル(約3兆8300億円)相当の機械や電子部品を対象に発動された。「欧米には、左の頬を打たれたら右の頬を差し出すという考え方があるが、我々の文化では殴り返す」と習主席は語ったと報じられている。

中国はその通り反応し、米国産の多目的スポーツ車(SUV)や豚肉、大豆など同等額の商品に対し追加関税を課した。米国が追加的な措置を打つなら、断固たる態度で応じるとした。現にトランプ政権は10日、さらに2000億ドル分の中国産の品目に10%の追加関税を課す計画の詳細を明らかにした。

まるで鄧小平の教訓に回帰?

だが言葉の面では、中国が許容する国内のネット市民の発言を含め変化が起きている。勝ち誇った態度や極端な愛国主義が許されなくなっているのだ。その証拠らしきものが見られたのは6日だ。中国側の報復関税の発動が迫る正午前、中国のソーシャルメディアは大型貨物船「ピークペガサス」の航行に夢中になった。米国産大豆を積んだこの貨物船は、正午までに大連港に到着しようと猛スピードで進んでいた。コメントの大半は、気の毒な大豆を応援する屈託のない内容だったが、検閲当局は反米感情をあらわにしたコメントを片っ端から削っていた。結局、貨物船は正午には間に合わなかった。

より本質的変化を示すのは、中国のプロパガンダ当局が報道機関に出した指示だ。米カリフォルニア州を拠点とするニュースサイト「チャイナ・デジタル・タイムズ」によると、当局はトランプ氏の「下品さ」を非難するな、「誹謗(ひぼう)中傷合戦」に加わるなと命じたという。また「冷静さと理性」が必要との高官の言葉を何度も引用している。中国の優位性を誇示したり、貿易戦争で中国は米国を軽く潰せるといった主張をしたりしないようくぎを刺している。あらゆる技術分野で世界のトップを目指す計画「中国製造2025」についても控えめに報じるよう促している。まるで鄧小平の「万事控えめに」との教えへの回帰を推奨しているかのようだ。

神格化されすぎた習近平氏

変化したのには複数の理由がある。最も明らかなのは、財政と経済の弱みだ。貿易戦争は、大惨事に発展するとは限らない。中国経済は過去ほど輸出に依存していないし、貿易総額のうち、追加関税の影響を受ける品目の比率は比較的小さい。だが巨額の債務を抱える中国経済は、貿易戦争が始まる前から既に減速していた。不安が資本流出に発展すれば、金融危機を誘発しかねない。リークされた当局の指示では、貿易摩擦が原因で株式市場が下落したという内容の報道は一切許されないとされている。やるべきことを冷静に継続せよ、プラス面を強調せよ、というわけだ。

これに関連して当局が最も避けたいのが定番化している中国の経済的武器、つまり消費者によるボイコットだ。12年には日本企業、昨年は韓国のスーパーマーケットに対する不買運動が起きた。いずれも、当局の好戦的なプロパガンダが引き金だった。今、大規模な反米ボイコットが起きれば、政治的緊張はさらに高まる。米中の経済は密接につながっているだけに多くの中国企業も痛手を負うことになる。例えば中国で米マクドナルドのフランチャイズ権を持つのは中国の国有企業だ。

 中国は、貿易戦争では高潔さを示すことで他国を味方につけようとしている。相手を辛辣に批判しては、そうしたイメージ戦略が台無しになる。「中国製造2025」をアピールして、中国が米国を抜こうとしていることもあまり強調してはならない。北京の研究機関ギャブカル・ドラゴノミクスのヤンメイ・シェ氏によると、中国は世界的な貿易秩序の擁護者として認識されたいのであり、自分たちは米国より正しいことをしていると見られたがっている。

北京での今週の欧州連合(EU)との首脳会議でも、中国の高官はこの作戦を使うだろう。欧州における米国の同盟国を自陣へ取り込みたい考えである。貿易では欧州各国もトランプ氏の標的となっているが、欧州が中国の願いに応じるかどうかは別の話だ。トランプ氏からの攻撃を不快に思っているし、同氏の中国への姿勢に賛同していないが、中国が外国からの投資に障壁を設けていることや、欧米の知的財産権を侵害していることについては、米国と同様に不満を抱いているからだ。

さらに、ほぼ言及されない要因がもう一つある。中国での習氏の神格化だ。独裁者である彼は中国のスーパーヒーローとしてだけでなく、国際的に活躍する天才政治家としてこれまでイメージを構築されてきた。全国の政府職員は昨秋、大国として台頭する中国を描いた全6回のテレビ番組を視聴するよう命じられた。その中で習氏は番組の主役としてあがめ奉られている。失脚する前のジンバブエのムガベ大統領は、習氏を「神が送った人物」と称え、トランプ氏は彼とは「相性が抜群」と語る。同時期に載った記事で、王毅外相は習氏を「新たな道を切り拓き、過去300年来の欧米的な国際関係の理論を超越した」と断言している。

5月には中国共産党中央党校による刊行物に「類いまれな指導者――新時代における習近平の強力な指導力に対する外国での賛辞の研究」と題された特集記事が載った。同刊行物は、習氏が勝ち取った称賛を体系立てて研究する必要を論じている。香港大学で中国のメディアを研究するプロジェクトの共同責任者デビッド・バンダースキー氏は、「これはいわば"ゴマすり研究学"だ」と指摘する。

「控えめに」と今更言われて変われるのか

中国当局が今恐れているのは、米国との摩擦が悪化した場合、極めて重要な対米関係において習氏が不手際を起こしたと国内で非難されることかもしれない。米ワシントンのシンクタンク「スティムソン・センター」のユン・スン氏によると、あまりに激しく米国を批判すれば、中国がトランプ氏の一枚上手をいくのに失敗したとの印象を一般国民に与えてしまう。そうなると習氏が責められることになるわけで、それは「喜ばしい状況ではない」という。

また、トランプ氏の習氏に関する発言は今のところ、褒め言葉が多く友好的なだけに習氏をおおっぴらに厳しく批判するような事態は避けたいのだろう。だからこそ中国当局は自信過剰な表現をけん制し、控えめな振る舞いを求めているのだ。7月初め、共産党機関紙の人民日報は「繰り返される自慢と傲慢な態度」を批判し、それが「メディアの信頼性を損ない、国民の精神をねじ曲げた」と論じた。さらに中国が上げた成果について「誇張し、一般化し、声高に叫ぶ」ネット上の記事をも攻撃した。

ただ、そうするようにずっと奨励してきたのは、ほかならぬ中国の最上層部であることには触れていない。バンダースキー氏が指摘するように、大言壮語や勝ち誇った発想がすっかり浸透してしまった今の中国に、今更控えめにと指示しても、もはや変わるのは難しいのではないか。

(c)2018 The Economist Newspaper Limited. Jul.14, 2018 all rights reserved.

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