夏のこだわり下着 男は「見せない」女は「見せる」

毎年襲う猛暑のせいで一段と進む男女の薄着化。そんな夏の装いをクールに見せる下着が隠れたベストセラーになっている。男性の間では"オジサンくさい"と敬遠されてきたベージュの肌着が、シャツや細身のパンツに「透けない」「響かない」と大人気。女性用では「透けて見えてもいい」とスタイリッシュな下着がヒットしている。夏場でも快適さとおしゃれの両立を求めるこだわりが新トレンドを生み出した。
◇ ◇ ◇
男性用肌着のトップメーカー、グンゼの「SEEK」は薄手のシャツにも「響かない」男性下着の先駆けだ。肩や袖、襟ぐりは縫い目がなく切りっぱなし。胸元は深いUネックで、シャツの第2ボタンを開けても生地が見えない。全体に細身のデザインだ。
男性向けにベージュが人気
ベージュ色のモデルは2005年に投入したが「ラクダのシャツみたい」「縫い目がないけど大丈夫か」と消費者の評判はいまひとつだった。転機は11年に始まったスーパークールビズ。ポロシャツや薄手のパンツといった軽装化が職場で進んだ。すると「シャツの胸元から丸首の下着が見えたり、パンツに下着の柄が透けたりするのがかっこ悪い」(25歳会社員)と、肌着のイタズラに敏感になる男性が増えた。そこでベージュが見直された。
SEEKでは今や、ベージュが白を抑えて売上高の5割を超す1番人気に躍り出た。ポロシャツ用やTシャツ用など新作も次々投入。グンゼの17年の男性用肌着の売上高は12年に比べて3倍となった。
一方、ユニクロは13年、男性用のベージュ肌着を一度は廃止したものの、客の強い要望で14年に復活させた。「今ではTシャツの下にも肌着を着る。ベージュへの抵抗感はまったくなくなった」と同社。最近は身幅をスリムにするなど改良に取り組む。ワコールでは「この5年でパンツの主流が細身でフィットするものへと変わり、ベージュのブリーフの需要が拡大している」と話す。
商社に勤務する男性(42)は「夏場は汗で衣服が肌に張り付くのが嫌で、インナーは必須」。最近は白パンツの下に着るベージュのボクサーパンツがお気に入りだ。
透ける服と重ねて美しく

女性用では、透けるファッションなどのトレンドを重視した、スタイリッシュな下着が注目を集めている。

東京・渋谷の「CASUCA」に並ぶのは、オレンジやブルーのブラキャミソール。ドレスのような美しいシルエットと、縫い目が一切ないスタイリッシュなデザインは、スタイリストの安野ともこさんの企画によるものだ。
開発のきっかけは、あるファッションスチル写真の撮影現場での出来事だった。モデルが着用したドレスの背中に、肩ひもを調整する金具、アジャスターが浮き出ているのに気付き、「服をきれいに見せるためには邪魔」と思った。それからというもの、ブラのワイヤによる締め付けや過剰な装飾、ショーツの縫い目など、市販下着で気になる点が次々と浮かび上がった。ならばと16年、自身でブランドを立ち上げた。

アジャスターは本体裏側に隠し、肩ひもは細く。縫い目をなくし、下着の表面はなめらかに。肌を美しく見せる色のブラキャミソール(ロング、税別2万5000円)やショーツ(ハイウエスト、同9000円)を展開する。
「上に着る服がきれいに見えるように徹底的にこだわった」と安野さん。最近流行のシースルーのトップスなど、透けるファッションとの重ね着も提案する。「見せたい下着」として口コミで女性の支持を集め初年度は完売。今年は当初の10倍を売り上げる。
ワコールは4月、これまで豪華な装飾や色使いが特徴の「STUDIO FIVE」から、ファッションディレクター、田中杏子さん監修のシンプルな新ラインを投入した。「見せても、見せなくても、見えてもいい」がコンセプト。ホックのないブラジャー(同9500円)や肩ひもがないキャミソール(同1万5000円)をそろえる。
「トレンドのシースルーの衣服などと重ねられる、洗練された下着がほしい」との客の声に対応した。同社では「女性の服装がカジュアルになっているのと同様、レースたっぷりのランジェリー離れが進んでいる」とみている。
(編集委員 松本和佳)
[日本経済新聞夕刊2018年7月14日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。