宇宙事業、官民連携が多様に
(WAVE)石田真康氏
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が5月、民間事業者などとの共創で事業化を目指す新たな取り組みとして「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」を発表した。従来の宇宙事業は国家予算でJAXAが開発・実証したうえで民間の運営に移行してきたが、民間などと企画から共創していくのが特徴だ。

施策の背景には、2018年度から始まったJAXAの第4期中長期計画での「宇宙利用拡大と産業振興」という方針がある。筆者も17年に委員で参画した政府の「宇宙産業ビジョン2030」及び科学技術基本計画などを踏まえ、宇宙利用の拡大を図るとともに宇宙産業全体の市場拡大に貢献することを掲げている。
民間主体の活動は商業宇宙活動と呼ばれる。1980年代に欧州を中心に始まり、国が大株主となるなかで進められた。80年に設立されたロケット打ち上げのアリアンスペースは当初、欧州の12カ国・53社が出資した。82年には官民の共同出資で衛星画像データサービスのSPOTイマージが設立された。
2000年代以降は米国で商業宇宙政策が加速した。一番の成功例は米航空宇宙局(NASA)がスペースXなどと交わした国際宇宙ステーションへの物資輸送のためのロケット開発及び商業輸送サービスの契約だ。スペースシャトルが担っていた国際宇宙ステーションへの物資輸送は現在、民間企業のスペースXなどが担い、政府はサービスを購入している。
官民連携は多くの分野で様々な形で行われている。欧米政府は保有する衛星データの利活用を促す取り組みを推進中。米海洋大気局(NOAA)は「ビッグデータプロジェクト」と題してグーグルやアマゾン・ウェブ・サービスなどの協力や投資を得て衛星データプラットフォームを構築している。日本でも経済産業省が大手IT(情報技術)企業のさくらインターネットと類似の取り組みを進めている。
国際宇宙ステーションでも商業利用は進んでおり、超小型衛星の放出や各種科学実験のサービスを提供する企業が存在する。米民間企業は「宇宙ホテル」の建設を目指して居住可能なモジュール技術の実証もしている。NASAも月や火星を目指す際の居住施設に関する技術に注目しており、官民にとって「ウインウイン」の関係ともいえる。
月や火星といった「深宇宙探査」での官民連携は今後の議論だ。今年の米連邦政府の予算教書では22年から始まる月周回軌道上での居住基地の建設、23年の有人月近傍拠点ミッションが計画された。人類の火星移住を掲げるスペースXも開発中の大型ロケットが火星探査の前に月着陸ミッションにも使用可能と訴えるなど、歩調を合わせる動きもある。
一方、「月に人類の恒久的拠点を建設する」ことを目指すジェフ・ベゾス氏は月面着陸船「ブルームーン」の開発で連携することをNASAに提案しているが、「NASAがやらなくても自分たちでやる」と主張するなど、独立独歩の姿勢が強い。
月といえばアポロ計画があまりに有名だが、50年の時を経て民間企業の存在感が増している。今後の官民連携に注目したい。
[日経産業新聞 2018年7月12日付]
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