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農業にも働き方改革の波 若手確保へ18時退勤

農作業の現場で「働き方改革」が広がっている。休みが少なく作業がきつい印象があるが、農業法人を中心に業務効率化などで休暇の増加や労働時間の削減が進む。高齢化で就農人口が減る一方、農業法人の数は増えている。新規就農者の受け皿として期待がかかるが、他産業との人材争奪戦も激しい。農業が「選ばれる職業」となるには労働環境の改善が急務だ。

サラダボウル(山梨県中央市)では労働環境の改善で社員の定着率が上がっている

「こうして道具を整理して並べれば、使用状況が一目で分かります」。トマトを中心に生産する農業法人サラダボウル(山梨県中央市)経営企画室の小林太一さんは、手がんななど農具が並ぶ棚を指さして説明する。強く意識するのは、生産現場が無駄を見直すトヨタ流「カイゼン」活動だ。創業者で元金融マンの田中進社長が、農作業の効率の悪さや人材の定着率の低さに危機感を抱き、取り組むことを決めた。

元金融マンが「カイゼン」

2004年の創業当初、農具の保管方法はばらばら。使いたい農具が見当たらなくなるたびに作業を中断し、別の社員に電話で尋ねるなど「長くて半日ぐらい、何だかんだ仕事ができないことがよくあった」(田中社長)。

仕事が午前5時から午後10時まで続く日もあり、辞める社員も多かった。生産部門ではナス班など各班のリーダーが班員の翌日の作業予定を決めるが、当日に想定外の仕事が生じて計画通りに進まないことも頻発したという。

用具の置き場を決め、作業状況を見える化した(山梨県中央市のサラダボウル)

そこで農具管理のルールを規定。使用状況を見える化し、必要時にすぐ使えるようにした。5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)活動で改善を重ねた結果、生産部門の翌日の作業予定も「計画と実行の精度が上がってきた」(田中社長)。

無駄を省いた結果、サラダボウルでは週1日の休みと月1度の連休、年20日間の有給休暇が取れるようになった。社員は午前7~8時に来て午後6時に帰る人が主流に。現在、グループ全体でパートを含め約350人が働くが「独立せず、ずっとここで働きたい」という人が増え、社員の定着につながっている。

農業を取り巻く人的環境は厳しい。個人の営農者を含む農業経営体の総数は15年時点で約137万7300件。10年前から3割減っている。その一方で農業法人など法人経営体の数は2万7100件と4割増えている。

ただ、人は集まりにくい。17年度平均の有効求人倍率は養畜作業員が2.80倍、農耕作業員が1.71倍と全産業平均(1.54倍)を上回る。一般産業界でも人手不足が深刻になるなか、より人材を集めるためにも働き方改革は不可欠だ。

安定収入で平均年齢は20年代半ば

農業は作物によって繁閑があり、作業員の通年雇用が難しい場合もある。仕事を安定的に確保して安定収入を実現し、若手を続々集めているのが、大手外食チェーンに高原レタスなどを供給するアマリファーム(長野県小諸市)だ。20人ほどの社員の平均年齢は20代半ば。4月にも高卒者が3人入社した。甘利崇雄社長は「人材確保には安定した仕事と収入が欠かせない」と強調する。

地元長野県は冬は気温が低く、野菜栽培に適さない。冬場は土づくりや種まきなど、必要だが売り上げに直接つながらない仕事が多かった。そこで隣県の群馬県の畑を買ってキャベツなどを栽培。今年から真冬でも出荷できるようにし、ほぼ1年を通して仕事がある状態を作った。

長野県は山に囲まれ、畑には勾配がある。機械が入れるところも限られており、人力が必要となる。それだけに「労働環境ややりがいを大切にしたい」(甘利社長)として、今年から月4日の休暇のほかに週1日の休暇を加えた。

機械化で働きやすい環境を実現する法人も多い。パプリカなどを生産するデ・リーフデ北上(宮城県石巻市)は、オランダ式の最新農法を採用。ガラスハウスで温度や湿度などの管理は全てコンピューターが担い、勘と経験に頼る必要がない。「管理を自動化し、週休2日を実現させている」(鈴木嘉悦郎社長)

作業がしやすい作物

働き方改革を種で支える企業もある。種苗大手のサカタのタネは、作業効率のいいホウレンソウの種「ドンドンシリーズ」を7月から順次発売している。株の下に生える「下葉」が取れやすい作業性の高さが特徴だ。

サカタのタネが発売するホウレンソウは、下葉が取れやすい

ホウレンソウは収穫と下葉を取るなどの調整作業が全体の作業時間の約7割を占めるとされる。昨年冬に試験導入した千葉県多古町の生産者、鈴木亮平さんは「収穫のスピードが1割以上あがり、余裕をもって作業が進められる」と話す。サカタのタネによると、1日に作れる袋の数は他社製品より2~3割増えるという。

農林水産省就農・女性課の佐藤一絵課長は「経営者が労働環境を整備しなければ、人手不足はより深刻になる」と危機感をあらわにする。17年12月から5回開いた「農業の『働き方改革』検討会」では就農人口の増大を後押しするためにも環境改善に取り組む経営体に行政が支援すべきだとの意見が出た。「働き方改革の取り組みを既存の補助事業の要件に追加することも検討していく」(佐藤課長)

今国会では働き方改革関連法が成立した。一般産業界では時間外労働の上限を設けるが、農業は例外だ。他産業を追いかけるように始まった農業分野での改革も、人手を集め、魅力ある農作物を作るためには避けて通れない。

(商品部 岡村麻由)

[日経産業新聞 2018年7月13日付]

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