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「危険地図」生かせず 浸水区域は"想定内" 倉敷・真備町

西日本豪雨で4分の1が冠水した岡山県倉敷市真備町地区は想定される浸水区域や避難場所をまとめた「洪水・土砂災害ハザードマップ」を2016年に作製していた。今回浸水した区域と予測した区域はほぼ同じで想定内だったが、多数の犠牲者が出た。「見たことがない」という住民もおり、市からは「繰り返し確認を促すべきだった」との声も出ている。

「ハザードマップは一度も見たことはなかった」。真備町地区を流れる小田川が決壊した堤防近くに住む穂井田良さん(64)は悔やむ。倉敷市が6日に流した避難指示の放送は聞き取れなかった。実際に川を見に行くと水位は高くなく、その日は自宅で過ごした。

7日未明に堤防は決壊。数分後に自動車で避難を始めたが、渦を巻きながら水が迫り、間一髪で逃れた。「昔から堤防が決壊したら民家の2階まで浸水すると言われていたが、まさか本当に起こるとは……」と苦い表情で振り返った。

ハザードマップは水防法に基づき、国や都道府県などの河川管理者が洪水の危険性が高いとして指定した河川が流れる流域の市区町村が作る。

河川管理者が予想される降雨量や堤防の場所などを基に作った浸水想定区域図に市区町村が避難所などを加える。17年3月時点で全国で約1300市区町村が公表しており、倉敷市も16年にマップを作り全戸に配った。

真備町地区は今回の堤防決壊で地区面積の4分の1が水没し、浸水区域はハザードマップの想定とほぼ同じ。小田川流域で「100年に1度程度」とされる「2日間で225ミリ」の雨が降った場合、地域の大半が「2階の軒下以上まで浸水する」(5.0メートル以上)と想定していた。

浸水は11日、ほぼ解消したが、市の防災担当者は「マップを配るだけでなく、確認を繰り返し呼びかけるなどの対応が必要だった」と話す。

地区には過去の浸水被害を覚えていながら、迅速に避難できなかった高齢者も目立つ。

市立薗(その)小学校に避難した女性(80)はハザードマップを見た記憶はないが、1970年代の小田川の浸水も覚えており、床下程度の浸水を想定し自宅の土台も高くした。

だが6日の避難指示の放送も聞いており、隣人も避難する車に同乗するよう声を掛けてくれたが「こんなに水が来るとは思わんかった」。避難せず、2階に取り残されていたところを消防隊員にボートで救助され、「甘かった」と反省する。

2015年の関東・東北豪雨では茨城県常総市で鬼怒川の堤防が決壊し、多くの地区が水につかった。同市は09年にハザードマップを公表。浸水想定区域も示していたが、住民の多くが逃げ遅れて救助された。

国土交通省は常総市の水害を受け、16年にハザードマップ作製の手引を改定。屋内避難での安全確保が難しい区域では早期の立ち退き避難が必要な区域を設定することや、地域における水害の特性を分析することを盛り込んだ。同省水防企画室は「今回の豪雨を機に自分の市区町村のマップを確認し、避難に生かしてほしい」と訴える。

兵庫県立大の室崎益輝教授(防災学)は避難の遅れについて「気象や避難に関する情報が細かくなった分、判断が個人任せになり、結果的に自宅にとどまる人が多くなった可能性がある。一人でなく、近隣で声を掛け合って判断できるよう平時の訓練が必要だ」と強調した。

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