2019年4月25日(木)

泉大津のシンボル、なぜ羊 織物産地の誇り(もっと関西)
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コラム(地域)
2018/7/12 11:30
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大阪・難波から南海電鉄の急行で約20分。大阪府泉大津市の街を歩けば駅前の2頭の羊の銅像、羊の角の巨大オブジェ、羊の描かれたマンホールなど至る所に羊の姿が目に付く。市のマスコットキャラクター「おづみん」も羊の妖精ならぬ"羊精"だ。牧羊が盛んでもないのになぜ、羊が街のシンボルなのか。謎を追いかけると、江戸時代以前から先人が紡いできた繊維の街の歴史が見えてきた。

1952年に泉大津駅前に設置された羊の像

1952年に泉大津駅前に設置された羊の像

6月末に泉大津市をPRする音楽バンドが本格デビューした。羊の仮面をかぶって演奏するバンドの名は「The Blankets」という。ブランケッツは毛布。この名前から羊がなぜ街のシンボルかは意外にあっさりと判明する。

街の代表的な産業が毛布製造業で、国内シェアは約9割を占める。泉大津は日本一の毛布の街なのだ。毛布の代表的な原料の一つは羊毛だから、羊が街のシンボルとなった。大正時代までに一大産地としての地歩を固め、戦後は洋服向けのニット生産も盛んに。市内には現在も130~150社の繊維関連業者がある。

なぜ毛布製造が盛んになったのか。街の繊維産業史を紹介する市立織編館を訪ねた。毛布が国内で流通したのは、江戸末期の開国で毛布が輸入されてから。輸入毛布は暖かさや肌触りで一世を風靡、大阪にも毛布は荷揚げされたという。

泉大津で毛布製造が始まったのは1886年ごろ。同館の上西菊雄館長は「輸入毛布の人気を聞き、もうかると思ったのでは」と想像する。とはいえ誰でも簡単に作れるものではない。何か土台があったのだろうか。市史に詳しい市教育委員会の奥野美和文化財係長が「毛布は糸で織った生地を起毛する。江戸時代には織物の技術が根付いていた」と解説してくれた。

泉大津は海が近く、あまり良質な水田に恵まれなかったために綿花栽培が盛んになり、江戸時代には一大産地に。集約された綿花が堺などに出荷される中、綿の織物製造が興る。

江戸・明治期の代表的な織物製品に荷造りなどに使われた「真田紐(ひも)」がある。真田幸村が考案し、幸村と共に戦った後藤又兵衛が泉大津に伝えたという伝承が残るほど、この街と真田紐の結びつきは強い。

泉大津市のマスコットキャラクター「おづみん」があしらわれた水道の蓋

泉大津市のマスコットキャラクター「おづみん」があしらわれた水道の蓋

真田紐で創業したという毛織物メーカー、深喜毛織(泉大津市)を訪ね、6代目の深井喜一社長(73)に話を聞いた。同社は1887年に農家の副業として真田紐を織り始め、その5年後に毛布製造を始めた。

「米が作りにくいから綿花、農業よりもうかると真田紐を作った。泉大津には新しいことに挑戦する気風があった」と深井社長。進取の精神が綿から毛布へと産地を大きく変化させた。

「糸作りや染色、起毛など各業種が集積、各分野の競争が技術を培った」と話すのは、主に洋服用ニット向けに糸の企画販売をする澤田(同)を1969年に設立した泉大津商工会議所名誉会頭の澤田隆生氏(80)。「先人の積み重ねによる技術力が産地の強み」という。

消火栓にも「おづみん」(泉大津市)

消火栓にも「おづみん」(泉大津市)

泉大津と同様に綿花の産地から織物産地へと発展した愛知県などの尾州産地(同県北西部周辺)は綿糸から毛糸、和服から洋服向けに転換し、今も国内最大規模の服地の産地だ。繊維産業に詳しい大阪市立大大学院の富澤修身教授は「尾州は服地、泉大津は毛布を選択し、先行者として工夫と投資を重ねた」と語る。

泉大津の毛布の生産量は、明治・大正時代に軍需などの追い風を受けて拡大。戦時中は痛手を受けるが、戦後盛り返した。生産量は70年代をピークに減り、現在は輸入毛布の影響などで往時の1割を下回る年間140万枚程度にとどまる。

それでも挑戦はまだまだ続く。66年創立の毛布製造、瀧芳(泉大津市)はシルクが原料の毛布製造に挑んでその起毛技術で注目され、仏高級ブランドのコートの生地として採用された。瀧谷芳則専務(48)は「培った技術で道を開き続ける」と欧州でのさらなる顧客開拓を目指す。

泉大津の街で出会った毛織物会社に勤めて40年以上の男性が話してくれた。「綿花栽培に始まる挑戦の源は生活を守り、生き延びる必死の知恵。厳しい時代だからこそ知恵を絞り、新たな時代につなげたい」

(大阪社会部 堅田哲)

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