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売却額179億円超 今年も「お化けセール」健在

市場のあり方に変化も

毎年、売却額を更新し続ける「お化けセール」は、今年も健在だった。9、10の両日、北海道苫小牧市のノーザンホースパークで行われた第21回セレクトセール(日本競走馬協会主催)は、合計で前年を3.5%上回る179億3200万円(税抜き、以下同)を記録した。特に1歳馬233頭が上場された初日は211頭が落札。売却率は90.6%を記録し、売却総額96億7450万円(平均価格約4585万円)は100億円に迫り、ともに史上最高だった。リーマン・ショックなどの影響で65億円を割った2010年から昨年までの7年で2.67倍にも伸ばしており、これ以上に伸びしろがあるのかと思われていたが、前年からさらに伸ばした。一方で、市場のあり方には変化もみえる。

地味だった「ディープ」産駒

変化の最たるものは、市場の目玉であるディープインパクト産駒への評価だ。初日の1歳部門は好業績の一方で、驚くような高馬は出なかった。1億円以上の高額落札馬は22頭と、前年より7頭多いが、最高落札価格は2億5000万円(キングスローズの2017、父ディープインパクト、牡=落札者はダノックス)で、前年を2000万円下回った。また、高値が予想されたジンジャーパンチの2017は1億9000万円、アゼリの2017は1億4000万円(落札者はともに金子真人ホールディングス)で、2億円に届かなかった。理由は全兄、全姉の競走成績か。ジンジャーパンチの2017の場合、全兄ケイブルグラム、全姉エリティエールが中堅、下級条件止まり。アゼリの2017も、母アゼリは米国でG1を11勝した名馬だが、落札価格2億3500万円の全兄ロイカバードは1600万条件で成績が頭打ち。母が海外の有力牝馬で父がディープインパクトなら値は上がるが、国内で兄姉が走ると減価するのは皮肉な構図といえる。ただ、上場25頭中11頭が1億円以上で落札されており、地味でも高額には違いないのだが。

2日目の当歳部門ではこの傾向がより明確になった。最高価格はディープ産駒のリアアントニアの2018(牡=落札者はサトミホースカンパニー)で2億9000万円だったが、昨年の最高価格のちょうど半額。1億円の大台に乗ったディープ産駒も5頭で、昨年の9頭から大きく減った。前年、高額のディープ産駒争奪戦に加わった主体のうち、近藤利一氏やネット企業のDMM.com(東京・港)が「降りた」ことが大きく影響したが、長期的にはディープ産駒への評価が現実に追いついたといえる。早くから指摘されていた4歳以降の成長力不足は、サトノダイヤモンドの昨年秋以来の不振で「定説」となった。加えて、既に相当数の後継種牡馬が登場したが、存在感は薄い。種牡馬価値も考慮して大金を投じるなら、ルーラーシップやロードカナロアを出したキングカメハメハの方が期待感が大きい。

「大関」と新顔が下支え

相対的に評価が上がったのはハーツクライ産駒で、1歳は上場14頭中12頭が落札。当歳は14頭が完売だった。1歳、当歳とも1億円馬が4頭ずつ。1歳では2億円馬も2頭出た。ディープ産駒が高いと踏んだ買い手の注目を集めたのに加え、今年は産駒のヨシダが5月に米国でG1を勝ち、スワーヴリチャードも4月に大阪杯で待望のG1制覇。勢いもあった。キングカメハメハ産駒も、上場された16頭が完売。1歳4頭、当歳2頭が1億円の大台に乗った。今や国内の競走馬の半数以上がサンデーサイレンスの血を持っており、血統的な価値は上昇。昨年の日本ダービー馬レイデオロなど、少なめの生産頭数の中から有力馬を出し続けている点でも評価が高い。

このほかにも、ブラックタイド、ジャスタウェイ、15年の米三冠馬アメリカンファラオの産駒から1頭ずつ、1億円馬が誕生。当歳部門では、初登場のドゥラメンテとモーリスの産駒が評価された。ドゥラメンテ産駒は18頭中17頭が落札され、アイムユアーズの2018(牡)には1億8000万円の値がついた。モーリス産駒も14頭中13頭が落札。ラスティングソングの2018(牡)は1億7000万円で落札された。キングカメハメハ、ハーツクライは国内種牡馬界では長く大関の地位を守ってきた一方、ドゥラメンテやモーリスは産駒デビュー前。買い手の関心が様々な馬へと分散するのは、今年16歳のディープインパクトの「次」を購買者が探り始めた兆候ともいえる。

「NF」ブランドがけん引

ディープ産駒以外、それも産駒が実戦を走っていない種牡馬の子までが高くなるのは、ノーザンファーム(NF)のブランド力を抜きには考えられない。何しろ、2日間でNFと関係法人のノーザンレーシング(NR)に加え、NFと協力関係にあるレイクヴィラファーム(旧メジロ牧場)を含めて、1歳部門の109頭、当歳部門の79頭は完売である。1億円以上の高額馬を見ても、1歳部門の23頭中17頭はNFとNRが販売者で、価格上位7頭を独占した。当歳部門も1億円以上の16頭中14頭はNFとNRが占め、同じ社台グループでも、社台ファームはゼロ。他の1億円馬は、キタサンブラックの全弟(ヤナガワ牧場生産)が1億2500万円、カタール資本所有と見られるディープ産駒の1億5000万円が出ただけだ。

NFの競争力は絶えず海外から良質の繁殖牝馬を導入する一方、調教施設や飼料面にも投資を怠らない姿勢が支えているといわれる。ただ、それ以上に目につくのは営業力で、セレクトセールの購買者リストを見ると、毎年のように新顔が登場するのに驚かされる。以前は、近藤氏やサトミホースカンパニー(里見治氏の法人)など、数人の常連が高額馬を買っていたが、近年は馬主歴の浅い人々が高額馬争奪戦に参入してくる。毎年、高馬を買い続ける財力を維持するのは容易なことではなく、姿を消したり、戦線を縮小したりする人も当然いる。こうした中でも業績を上げ続けるには、新規顧客の獲得は欠かせない。その点でいえば、NFの顧客サービスは非常に手厚く、同業者が「カジノの大口顧客並みの接待をしている」と舌を巻く。今回の1億円馬購入者の中にも中央競馬の馬主登録を今年、完了した人も含まれていた。

こうした営業努力は1歳部門90.6%、当歳部門88.7%という驚異的な売却率に帰結した。世界的に見ても、これほどの規模の市場で、売れ残りが1割程度しか出ないのは皆無に等しい。それ故、どの牧場の馬が売れなかったかに関心が向いてしまう。今回、売買不成立の馬は1歳22頭、当歳26頭だったが、完売のNFに比べると、社台ファームでも1歳4頭、当歳3頭が売れ残った。社台ファームの吉田照哉代表とNFの吉田勝己代表は兄弟であり、社台グループは間違いなくファミリービジネスといえるが、近年は社台ファームとNFの格差が広がっている。昨年の中央の生産者ランクを見ても、首位NFが145億6067万5000円に対し、2位の社台ファームは63億7163万5000円で、約2.3倍の大差がついた。格差の理由として、NFの攻撃的なマーケティングを挙げる人は多い。当歳部門への熱の入れ方でも温度差がのぞく。セリ終了後、主催者の日本競走馬協会会長代行として取材に応じた吉田照哉氏は「うちも含めて、普通の生産者は1歳で売りたいんだけれど……。ノーザンファームは別としてね」と話した。NF生産馬の場合、高い馬ほど早めに買わないと人手に渡ってしまうという切迫感が買い手にあり、これが当歳の相場を支えてきた。セレクトセールはもともと、サンデーサイレンス産駒の「青田買いセール」として出発した経緯があり、NFの独り勝ち状況が続く限りは、生後半年にも満たない幼い馬を高値で競り合う、世界の競馬界でも珍しい場面も続きそうだ。

日高勢も海外勢も存在感薄く

また、北海道日高地区を中心とする非社台グループは1歳が57頭上場で39頭が落札され、落札率68.4%、当歳が105頭上場に対し落札83頭で落札率は79%だった。両部門とも一般的な市場としては十分に高い落札率だが、近年は日高勢のセレクトセールへの参入が減り気味とされる。理由は市場全体の好況で、HBA(日高軽種馬農協)主催の各市場は近年、開催のたびに業績を伸ばし、バブル期を思わせる好調が続いている。日高勢としては牧場の看板馬を送っても、良質馬が集まるセレクトセールでは埋没してしまうため、好況のHBA側に向かう方が得策ということになる。社台グループとしても日高勢が少ないと、その分多くの馬を上場し、セリの業績も伸ばせる。以前は市場取引馬がレースで好走すると、日本中央競馬会(JRA)が奨励金を出しており、セレクトセールが奨励金対象の資格を満たすには、非社台系の馬を一定の比率以上、上場する必要があった。だが、奨励金は07年に廃止され、今は社台系の馬が大半を占めても問題ない。今年の1歳部門で同グループの上場馬は75.5%を占めており、日高勢の存在感は薄れている。

2日間、市場を歩くと、聞こえてくるのは「高い」という声だった。海外勢も今年は欧州最大規模の「クールモア」が参加を見送るなど、あまりの高騰ぶりにお手上げの様子だった。ディープインパクト産駒は今年、欧州で英国2000ギニー(日本の皐月賞に相当)、仏ダービーを勝って注目されたが、海外勢の購買例は数えるほど。高すぎる価格が参入障壁としてそびえ立っている。

(野元賢一)

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