アパレルも「定額制」時代 レナウンがスーツレンタル
月額定額の衣料品レンタルサービスに乗り出す企業が相次いでいる。レナウンは10日、月4800円(税別)からでスーツを貸す事業に本格参入すると発表した。三越伊勢丹も高額なドレスなどを20~30代女性にレンタルするサービスを8月に始める。若年層の消費行動が「所有」から「利用」へ変化するなか、音楽配信などで定着した「サブスクリプション(継続従量課金)」型で顧客をつなぎとめようとの動きがアパレルでも広がってきた。

「服は買うから利用する時代になる」。同日、都内で開催したイベントで、レナウンのカスタマーリレーション&コーポレートコミュニケーション統括部の中川智博部長はこう強調した。2018年春に始めた法人向けのレンタルが好調だったため、当初予定より半年前倒しして今秋から一般消費者に対象を広げる。
月4800円でスーツ2着
新サービス「着ルダケ」は月額4800~9800円で契約期間は6カ月から。4800円のプランの場合、春夏物と秋冬物のそれぞれ2着のスーツを利用できる。シーズンごとに新たなスーツが送られてきて、返送したスーツはレナウンがクリーニングして保管する。
貸し出すスーツの定価は1着6万円前後。計4着を購入すると24万円かかる計算だが、同社のサービスでは年間6万円弱で利用できる。スーツやシャツ、ネクタイのコーディネートを提案するほか、手入れの相談にも応じる。手入れの手間が省けるほか、着用しない時期に保管する場所も必要ない。スーツは2年ごとに新品と交換し、使用済みのスーツはレナウンに返却するか、自分で買い取るかを選べる。
レナウンの狙いは若年層など新たな顧客の取り込みだ。総務省によると、17年度の国内のスーツの年間支出額はこの10年で約4割減った。クールビズなど仕事着のカジュアル化が進み、「スーツに数万円を出すのには抵抗がある」といった消費者も増えている。ただプレゼンテーションや接待の場などで必要になることもあり、支払いのハードルを下げることで需要を掘り起こす。
同額のスーツを販売するよりも目先の収入は減る計算になるが、契約を継続してもらえれば安定収入につながる。アパレル不況の原因となった在庫リスクや値下げ販売とも無縁だ。レナウンによると3000人以上の会員を獲得できれば黒字が見込める計算だという。
AOKIやワールドも参入
衣料品各社によるレンタル参入は相次いでいる。紳士服大手のAOKIは4月から、ビジネスウエアのレンタルサービス「suitsbox(スーツボックス)」を開始。月7800円でスーツとシャツ、ネクタイのセットをレンタルできる。受注が好調で、当初は21年3月期に目指していた会員数1万人の目標を「1年前倒しで達成できる見込み」(経営戦略室の永沼大輔氏)という。
カジュアル衣料大手のストライプインターナショナルも定額のレンタルサービス「メチャカリ」を展開。約13年ぶりの上場をめざすワールドも3月、衣料品の定額レンタルサービスを展開するスタートアップに出資した。
レンタルやシェアビジネスと距離を置いていた百貨店業界も動く。三越伊勢丹は8月から11月までサブスクリプションサービスを三越銀座店(東京・中央)で始める。貸し出すのは20代から30代の女性を対象にした結婚式向けのドレスや"女子会"など特別な日に着用するようなワンピースやブラウスなどだ。
利用者は店舗か専用のアプリで気に入った商品を選んで借りることができる。著名なデザイナーブランドを含む10ブランドで180点のドレスなどを用意。利用料金は2泊3日の期間で1万5千円から2万円と、新品の価格の2~3割に設定する。12月以降は店舗や対象ブランドの拡充を検討する。
若者に広がる「すぐ売る消費」
若年層を中心に百貨店アパレル離れは深刻だ。百貨店での衣料品販売は17年まで4年連続で前年を下回った。「ゾゾタウン」などのネット通販や個人間売買の「メルカリ」が台頭し、若年層は衣料品を使い古すまで使うという習慣が薄れている。SNS(交流サイト)に投稿するためだけに服を買い、すぐに売る「ワンショットファッション」という消費行動も生まれるなど、若年層を中心にネットで売買する傾向が目立っている。
三越伊勢丹は「若年層にはハードルが高いと思われるブランドにレンタルで触れてもらうことで、利用への選択肢を増やしたい」と話す。すっかり百貨店に来なくなってしまった若年層にまずは店舗に来てもらい、ネット通販や実店舗での新品での購入につなげる狙いだ。
(花井悠希、鈴木慶太、高橋彩)