2019年6月24日(月)

浮力で立つ壁 水を断つ 日立造船の防災フラップゲート(もっと関西)
ここに技あり

コラム(地域)
2018/7/9 11:30
保存
共有
印刷
その他

日立造船の堺工場(堺市西区)にある「Hitz防災ソリューションラボラトリー」。スイッチを押すと巨大なタンクにためた約90トンの水が噴き出し、工場や地下鉄、ビルの入り口を模したシミュレーション施設めがけて押し寄せる。みるみる水かさが増し、4分弱で膝までつかる深さに。ところが、入り口の「フラップゲート」と呼ぶ止水壁が自動的に立ち上がって水をせき止め、奥への浸入を許さない。

安治川水門(大阪市)など多くの水門や防波堤、防潮扉を手掛けてきた同社が2010年に開発した陸上設置型の「フラップゲート・ネオライズ」だ。外側は金属製で内部を軽量樹脂が満たす。普段は平らに寝た状態で、上を自動車が通過しても耐えるが、水が満ちた時に浮力だけで起き上がる軽さも備える。

社会インフラ事業本部の仲保京一フラップゲート統括は「自然界の浮力を使い、動力不要のシステムならゲリラ豪雨や突然の高潮でもすぐ対応できる」と話す。一気に大きく動いて近くの人間がケガをしないように、滑車と重りでバランスを取ってじわじわ動く工夫も加えた。「アイデアは夜行バスの車中やジョギング中に浮かんだ」と明かす。

水位の上昇とともに浮力で起き上がる止水壁(堺市西区の日立造船堺工場)

水位の上昇とともに浮力で起き上がる止水壁(堺市西区の日立造船堺工場)

ネオライズの原型は03年、開発に着手した海底設置型の「フラップゲート式防波堤」だ。平時、空気が入った鋼製の防波堤を海底に倒しておき、フックで固定する。地震が起きるとフックが外れ、防波堤自体の浮力で海面近くまで起き上がり、津波が到達する時の波力で垂直に立つ。

11年の東日本大震災では水門を閉じるため港に向かった多くの消防団員が津波に巻き込まれた。停電中で手動操作に手間取り、命を落とすケースが多々あった。国の11年版消防白書は、住民の避難誘導にあたった団員も含め岩手、宮城、福島の3県で消防団員254人(うち行方不明者12人)が亡くなったと記す。

尊い犠牲を払い、水門や防波堤に必要な条件が明らかになった。(1)操作時に危険を伴わない(2)確実に機能を発揮(3)維持管理が容易(4)日常は邪魔にならない――の4つだ。

フラップゲートはこの4条件に対応している。17年10月、日立造船は東洋建設五洋建設と共同で岩手県から大船渡漁港の高潮対策で海底設置型フラップゲート式水門を23億4000万円で初受注した。1600トンの鋼材を使った水門は20年3月に完成する。

18年2月には壁面設置型ネオライズ14基を中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)に納入。津波が原発壁面の空調用開口部から内部に浸入するのを防ぐ。大自然の猛威を自然の力で押しとどめるフラップゲート。76基が設置済みで、さらに20基が施工中だ。

文 編集委員 竹田忍

写真 松浦弘昌

カメラマンひとこと 取材に立ち会った担当者のスーツがぬれるのでは、というのは無用な心配だった。くるぶし、膝へとかさが増す冷たい水の流れを止水壁がしっかりせき止めた。シミュレーション施設でのデモのため、起き上がりはかなりゆっくりだ。動きをだすためスローシャッターを切る。止水壁以外の部分がぶれないよう脇を締め呼吸を止めた。

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報