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スター誕生の新常識 熱烈ファンはテレビを見ない

時代を象徴するタレントや歌手はこれまで、テレビやラジオから生まれてきた。だが若者がSNS(交流サイト)などの新媒体に軸足を移す今、従来の定石は通じない。幅広い層にアピールするより、コアなファンとの関係をネットでとことん深めることが、現代のスターを育てる。そんな発想で新たなファン交流事業に挑むスタートアップ企業が増えている。

ファンテックで熱量をつかむ

今春、ツイッターのランキングが突如急浮上したワードがある。「岡崎体育」。スポーツや競技場ではない。男性シンガーソングライターだ。名前を投稿することで、評価ポイントがつく取り組みが始まったため、彼のファンが熱心に書き込んだためだ。

仕掛けたのはファンクラブサイト運営会社のSKIYAKI(スキヤキ)。「ゆず」や「ゴールデンボンバー」など約300の人気アーティストの公式サイトを運営し、昨年10月に東証マザーズに上場した。ファンの行動をIT(情報技術)で分析する「ファンテック」をうたっており、2月に新サービス「ビットファン」を作り、第1弾として岡崎体育ファン向けに始めた。

ビットファンは「ファンの熱量を数値化するサービス」(宮瀬卓也社長)だ。岡崎体育ファン向けでは(1)ファンクラブ入会や継続(2)グッズ購入(3)サイトのログイン回数(4)ツイッターでのつぶやき数――に応じてポイントを加算。ポイントに応じてコンサート後の握手や写真撮影ができる特典を設けた。

グッズ購入など射幸心をあおる意見も一部あったが、SNSの投稿やサイトの閲覧回数など、料金のかからない活動も評価することで対応した。

大手芸能事務所が経験と勘で選んだ人を、テレビなどマスメディアに大量露出させて認知度を高める。これまでのタレントやアーティストの育成パターンだ。

だがオンラインビデオ総研によると、10代後半から20代の6人に1人は、1カ月に1度もテレビを見ない。音楽など趣味嗜好も画一的ではない。作り手主導のスターは生まれにくい時代だ。

スターの位置づけそのものも変化している。強烈な演出で全国区の有名人になるケースは今も多いが、人気が長続きしにくい。万人受けすることは、早く飽きられるリスクを内包している。「ビッグなスター」より、特定の分野で熱烈なファンに支持される「ディープなスター」を目指す方がビジネスとしては持続可能性が高い。

若者にとってネットがメディアの中心の現在、「コアなファンの熱意を分析、活用してアーティストを育てる『マイクロマネジメント』が必要だ」(宮瀬社長)。

同社の2018年1月期の売上高は24億円。約7割はファンクラブサイトの運営で占めた。今後はビットファンをプロ、アマ問わずファンコミュニティーのプラットホームにして、同社の看板事業に育てる考えだ。

本人が登場する有料SNS

最近は公式SNSを開設するアーティストやタレントは多い。ただ、ファンとのコミュニケーションより、アーティストが一方的に情報発信する無料サイトが大半だ。

ネットマーケティング支援のTHECOO(ザクー、東京・渋谷)は17年12月、月額制に特化したファン交流アプリ「ファニコン」を始めた。利用者はアーティストごとに毎月料金を払うことで、限定動画の視聴や希少グッズの購入、ファン同士のグループチャットなどができるようになる。

料金はアーティスト自身が独自に設定する。月額100円から同1万円と幅がある。開始後半年たった現在、登録するアーティスト数は約300人。申請が殺到しており、処理待ちが約600人にのぼる。ユーチューバーや声優、俳優、スポーツ選手も登録している。

「有料だからこそ、ファンはアーティストを支える意識が高まる」と、ザクーの平良真人最高経営責任者(CEO)は語る。グループチャットにはアーティスト自らも参加することがある。有料会員同士の仲間意識も強く、日常の出来事をチャットに書き込むことも多い。毎日アプリを数十分使う会員もいる。

インスタグラムを活動の場にしているモデルの福山あさきさんは、ファニコンが試験運用を始めた1年前に登録。今や会員数が300人と平均の3倍の人気を誇る。インスタにはアップしない実家の様子など素の姿を写した画像を公開するため、熱量の高いファンが結集。1画像に7千回以上「いいね」をクリックしたハイカロリーなファンもいるという。

アーティストは会員の性別や年齢など属性もわかるので、「アーティストはファンが何を求めているかをリアルに把握できる」(平良CEO)。テストマーケティングとしては有効ツールとなっている。

ザクーはファン交流イベントができるスペースを設けるため、3月に本社を原宿に移転。4月にはアプリ事業拡大のため、みずほキャピタルやYJキャピタルなどから約3億円調達した。

大手メディアも時代の変化を傍観しているわけではない。動画配信のCチャンネル(東京・港、森川亮社長)は4月、松竹や集英社、ポニーキャニオンなど7社と組んでスマートフォン(スマホ)動画を活用したタレント発掘事業を始めた。

注目アイドルや芸能人が動画を投稿。利用者の反応を数値化してランキングにする。ランキング上位者には協業企業を通じて企画出演の場が与えられる。協業する1社であるTBSホールディングスの仲尾雅至取締役は「スマホから新しいスターが出てくれば」と期待を込める。

旧来のスター誕生への道がテレビや芸能事務所に支えられた育成型だとしたら、今はSNSとスマホ、ITを介して熱波が仲間内に伝わっていく拡散型だ。本人とファンの距離が近くなる分、光は遠くには届かなくてもスターの輝きは増すのかもしれない。

(榊原健)

[日経産業新聞 2018年7月4日付]

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