残念な営業、AIが見抜く コグニティ
(アントレプレナー) 河野理愛社長

2018/7/4 6:30
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優秀な営業マンと残念な営業マンは何が違うのか。コグニティ(東京・品川)は人工知能(AI)を使い、人間が持つ曖昧さを解き明かそうとしている。音声や文字情報を一定の規則性に基づいて仕分け整理することで本質をつかむ。デジタルの最先端の取り組みだが、河野理愛社長(36)は起業のきっかけはアナログ。2冊の本との出合いだった。

河野理愛社長 2001年、慶大在学中にNPO法人を立ち上げ、スポーツ関連事業を手がける。05年、ソニー入社。11年、ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。13年、コグニティ設立。

河野理愛社長 2001年、慶大在学中にNPO法人を立ち上げ、スポーツ関連事業を手がける。05年、ソニー入社。11年、ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。13年、コグニティ設立。

事業の根幹となるAI「コグストラクチャー」の仕組みはこうだ。まず音声や文字情報を「アイデア・意見」や「データ・事実」など13の指標に沿って分類。その分類情報を各ブロックごとに関連づけ整理していくことで問題点をあぶり出したり、評価したり、解決策を導き出したりする。

例えばスピーチをした際に、テーマに沿った情報を論理的に提供しているかなどを解析できる。ビジネスの営業分野では、成績上位と下位の人の情報を比べることで営業手法の違いを浮き彫りにし、効果的な改善策を立案できるようになる。

既に情報分析と改善提案の2種類のサービスを展開しており、70社以上に導入した。創業から6年、従業員は150人を超え、データを分類するための専門部隊は国内外で100人以上までに増えた。

河野社長の起業のきっかけは1995年に本屋で手に取った「走る科学」(小林寛道著)という1冊の本だった。苦手の運動を何とかしたいとの思いから、同著を参考にトレーニングなどの方法を考えたが、結局は情報を整理しきれず、苦手克服には至らなかった。

同じような悩みを持つ人は多いのではないか。河野氏は独学でプログラミングを学び、ホームページ「あっと驚く研究のページ」を開設。スポーツ社会学や心理学、トレーニングなどの項目を作り、全国から情報を募った。やがてホームページはアスリートや大学の研究者などが集う場となり、悩みが投稿されると解決方法が提示されるような好循環が生まれた。

そんな時に1本の電話がかかってきた。徳島県を本拠地とするサッカーチーム「徳島ヴォルティス」のキャプテンだった笠原健氏からで、試合のデータ収集と分析を依頼したいとのことだった。

河野氏は毎週スタジアムに通い、試合中の選手とボールの動きをつぶさに集計、パスミスなどが起きたケースをまとめた。シーズン前半終了時点でデータをチームに返し、後半の戦略づくりに生かされた。

こうした経験を基に、19歳の時にスポーツトレーナーを紹介したり、運動器具を開発したりする会社を設立。学生起業家として注目を集め、事業は軌道に乗ったが、最終的には就職し事業は譲渡する道を選んだ。「ビジネスなのに無償で仕事を受けてしまうなど甘さがあった。こんなことでは通用しない」との思いからだった。

就職先はソニーで、デジタルビデオやデジカメ部門の経営戦略を担当した。やりがいのある仕事だったが、スマートフォンなどモバイル機器の急速に押され、部門が徐々に勢いを失っていく現状も目の当たりにした。

新規事業創出部門に異動し情報処理技術とビジネスの進化の過程を研究。「情報の根源を考えていくうちに、認知の限界が訪れるということを感じていた」。ふつふつと新たな思いが生まれ10年にソニーを退職、充電期間に入った。

この時期に、コグストラクチャーのヒントになる「議論の技法」(スティーヴン・トゥールミン著)という本に出合う。論理的な思考を結論、事実、修飾語に分ける手法を紹介しており、河野氏はこれを基に論文やスピーチなど約300件のサンプルを調査したところ、80%程度の精度で分類できることが分かった。

次にトゥールミン氏の手法では分類できなかったサンプルを分類するための手法の開発に取りかかる。「単語帳のようなものにすべて手作業で一つ一つ分類していく」といった地道な努力の結果、現在の13に分類する手法を確立した。

その後も試行錯誤を繰り返し、16年から本格的にサービスを始めた。中古車売買大手に導入した際には「買い取りで優秀な人と、販売で優秀な人では効果的な営業手法がまったく違うことが鮮明になった」という。

サービスの導入先では、分析結果を基に教育プログラムを作り、営業力の底上げを支援する。現在は医薬やコンサルタントなど高い技術を要する業界からの引き合いが強いが、「今後はサービスの裾野を広げていきたい」と意気込む。

AIはまだまだ成長の余地を残しているとも話す。「例えば、AIがどう思考して答えを出したのかなどを教えてくれれば、ユーザーはAIと対話しながら満足感を得られる」。見据えるゴールは先にある。

(指宿伸一郎)

[日経産業新聞 2018年7月4日付]

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