サッカー日本、W杯8強入りへ足りなかったもの
至言直言 清水秀彦

同じ顔ぶれでチームを熟成させてきたベルギーと、まだ2カ月ほどの日本。健闘はしたが、力の差、積み重ねてきた経験の差が最後に結果として表れたように感じた。
「2-0になった時が危ない」とは昔からいわれているが、後半早々に2点を取り、日本は試合の進め方に迷いが出た。前掛かりな相手に対してラインが下がり、1点差になってからはがっと後ろ向きに。「いつ追加点を取るか」というより、「いつ仕留められてしまうか」という雰囲気になっていた。我慢する経験が足りず、ギリギリのところで逃げ切るイメージがなかった。
追いかける立場になったベルギーは高さのあるフェライニ、スプリント力のあるシャドリと投入した交代選手がぴたりとはまり、それぞれ得点を決めた。一方の日本は本田、山口蛍といつものカードしか切れず。大会を通してオプションの数が少なかった。
最後の最後に試合をひっくり返したベルギーのカウンター攻撃は、向こうからすれば普段の練習でやっている形。90分を過ぎて本来ならふらふらになっていてもおかしくないのに、何人もの選手が全力で上がり、余裕があった。日々積み上げてきたものを最後に発揮できるところでも力の差を見せつけられた。
長いスルーパスから抜け出た原口の先制点と、無回転で蹴り込んだ乾の2点目。強豪を追いつめた2つのゴールはどちらも文句なしに素晴らしかった。相手の3バックの両サイドを狙い、特に右から左へと大きく展開してから乾、香川、長友で大型選手の裏を突こうとする動きはうまく効いていたのではないか。

守備面でもワンツーでペナルティーエリア内に入ろうとする相手の攻めを人数をかけて遮断し、前半はルカクやE・アザールに仕事をさせなかった。ただ、20分すぎから怒濤(どとう)の攻撃を浴びたことで足にきていた。後半途中からスピードががくんと落ち、前に出て行く間隔が空いてしまったのも敗因の一つだろう。
開幕前の下馬評を覆して決勝トーナメントまで勝ち上がったのは、窮地に立たされたときの日本ならではの団結力のたまものだと思う。ベルギー戦では少しミスも目立ったが、広い視野でチームの攻撃の核となった柴崎など、W杯で輝きを放った選手も出てきた。
だが、「惜しかった」「良く頑張った」ではいつまでたっても同じ立ち位置のまま。ベスト8に入るのはそんなに甘くない。4試合通して特に目についたのは失点の多さ。DFの個の力の底上げを図らないと、上位進出は厳しい。
そして何よりも、同じ指揮官の下でチームが成熟し、引き出しを増やしていく作業の重要性を改めて考えないといけない。
(元仙台監督)