2018年7月16日(月)

伊藤忠系VCの流儀 細かく深く経営参画

コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/7/3 6:30
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 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV)はベンチャーキャピタル(VC)業界のなかでユニークな存在だ。親会社、伊藤忠商事の名を冠すがファンドは独立運用。投資判断が迅速で自由度が高いVCの良さを生かしつつ、商社の幅広い商流を活用する。特にIT(情報技術)系スタートアップへの投資に強みを持つ。今後の方針などを中野慎三社長に聞いた。

中野慎三社長は「日本の産業構造の変革をスタートアップ業界から促したい」と話す

中野慎三社長は「日本の産業構造の変革をスタートアップ業界から促したい」と話す

 ――自社の特色は。

 「コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)とVCのいいとこ取りができる点だ。伊藤忠本体の投資判断を仰ぐ必要がないので、案件発掘から実際の投資まで2、3カ月とスピーディーにできる。一方で伊藤忠グループの資産を有効活用して投資先の価値向上につなげられる。起業家側は商社の強い商流を見込んだ販路拡大などへの期待度が高い」

 ――どのような分野に重点投資していますか。

 「システム会社伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)からも3割出資を受けておりIT系スタートアップへの投資は創業以来、継続して注力している。そのなかでここ2、3年増えているのがBtoB(企業対企業)サービスのスタートアップへの投資だ」

 「商社が母体なので、BtoC(企業対個人)分野はあまり得意とは言えない。特に、最近増えているゲームやアプリ事業を手掛けるスタートアップは当たり外れが大きく、投資効率が良くないのではと思っている」

 ――投資先との関わり方は。

 「(事業開発段階の)シリーズAや(事業拡大段階の)シリーズBから、平均的に1億~3億円規模を投資し経営に参画する権利を得ることが基本だ。投資先の取締役会などに出席し、事業内容はもちろんのこと値付けなど細かいことまで口を出し経営に深く関わる」

 「投資先の選別は、事業が世の中に求められているのか、市場規模などに加え、最終的には創業者そのものを見て判断する。我々は投資先の経営に深く入り込むので『経営者とケミストリーが合うか』を大事にする」

 ――2000年代前後の新興株バブルと現状の違いは。

 「当時は業界ができたばかりでVC自体が少なかった。ベンチャーを専門にした弁護士や会計士、監査法人もおらず『ベンチャーエコシステム(生態系)』は無いに等しかった。バブルに乗った一発屋の起業家も多く、詐欺などの事件も起きた」

 「最近はその質が明らかに変わってきた。大企業出身者やコンサル、弁護士や医者など既存制度や既存サービスのペイン(痛み)の分かるプロフェッショナルの起業家が増えており、事業やサービスへの信頼性が高まっている。米国の産業の主役が工業からITに変わっているのに日本はまだ旧態依然としている。スタートアップを育成して日本を成長に導く新たな主役を育てたい」

■ ■ 記者の目 ■ ■

 ネット経由でソフトウエアを提供する「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」分野のスタートアップが日本でも増えてきた。もともとIT系に強い伊藤忠テクノロジーベンチャーズには一日の長がありそうだ。SaaSの技術的優位性を見極める投資眼を持ち、その上で事業の必然性や将来性を見極められるからだ。

 中野社長は「日本では今までのITソリューションがSaaSに変わる真っ最中。米国ではソフトウエアのスタートアップの99%がSaaS型だ」と期待する。実際、米国では業界特化型と言われる医療や建築、教育など特定業界向けSaaS企業の時価総額が2016年時点で1500億ドル(約16兆6000億円)に達したとの試算もある。

 アプリ開発・運営クラウドサービスのヤプリ(東京・港)や薬剤師の業務軽減システムのカケハシ(東京・中央)など伊藤忠テクノロジーベンチャーズが最近投資した多くはSaaSスタートアップだった。来年には新たなファンドの組成を計画しており、SaaS投資が一段と加速しそうだ。

(京塚環)

[日経産業新聞 2018年7月3日付]

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