2018年11月14日(水)

「自国第一」の連鎖 対米報復関税、7カ国・地域3兆円

2018/6/30 20:30
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【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限に各国が反発し、報復関税の応酬となっている。すでに欧州連合(EU)や中国など7カ国・地域が対抗策を表明しており、対象となる米国産製品は最大300億ドル(3.3兆円)を超える。米政権の強硬策が相手国のナショナリズムを刺激し、各地が「自国第一主義」に傾く負の連鎖に陥っている。

「カナダは断固として自国の産業と雇用を守っていく」。1日からの対抗関税の発動を決めたカナダのフリーランド外相は6月29日、強調した。関税対象となる米製品は166億カナダドル(約1.4兆円)規模。7カ国・地域合計の半分弱だ。

カナダは輸出の76%、輸入の52%を米国に依存する。にもかかわらず強硬措置に転じたのは、トランプ氏に攻め込まれたトルドー首相が支持基盤の突き上げを受けているためだ。同国はアルミ生産で世界3位だが、首相の地盤、ケベック州はその9割が集中する。米政権に狙い撃ちされ雇用不安に一気に火が付いた。

リベラル路線で高い人気を誇ったトルドー氏は、5月には政権支持率が4割を切るまで急落した。鉄鋼産地のオンタリオ州では州選挙で「カナダ第一主義」を掲げる野党が圧勝。トルドー氏は6月の日米欧7カ国(G7)首脳会議でトランプ氏に「侮辱的だ」とかみついて支持率を反転させたが、2019年の総選挙までは「反トランプ路線」が欠かせない。

「我々の利益を守るためなら何でもする」。インドのスレシュ・プラブ商工相も、対米報復をためらわない。インドは鉄鋼輸出の2割強を米国に依存する。来春に5年ぶりとなる総選挙で問われるのはモディ政権の自国産業振興策「メーク・イン・インディア」。米国第一主義と真っ向からぶつかり合う。

EUは6月22日に28億ユーロ分の米国製品に報復関税を発動し、米国の代表的な二輪車ブランド「ハーレー・ダビッドソン」などを狙い撃ちした。鉄鋼輸出の7割を米国に依存するメキシコも報復関税を発動。ナショナリズムに訴えた強権的な政策が目立つロシアやトルコも、米国への報復関税を既に表明済みだ。

ただ、各国の対米報復措置に刺激され、トランプ政権がさらに追加関税に走るリスクもある。

「欧州車の輸入関税の調査が終わりつつある」。トランプ氏は6月26日、EUの報復措置に反発し、欧州車に対抗関税を課す可能性を示唆した。

鉄鋼・アルミは米国の輸入の2%にすぎず、世界経済全体でみても影響は軽微だ。ただ、自動車関連は米国の輸入の15%を占める最大の貿易品目。対米輸出で稼ぐ欧州や日本勢にとって高関税は致命的な打撃となる。米国は6日に300億ドル分を超す中国製品に制裁関税を発動する予定で、世界経済はいよいよ貿易戦争の淵に立たされる。

1930年代、恐慌に陥った米国は「スムート・ホーリー法」で2万品目の輸入関税を平均60%まで引き上げた。保護貿易で米製造業は瞬間的に回復したが、欧州などが一斉に報復関税を発動。米国の輸出は3年で半減した。米英独の失業率は一時20%を超え、第2次世界大戦の一因となった。

現在の世界貿易機関(WTO)体制はその反省から生まれたが、トランプ氏は脱退すらちらつかせる。自由主義経済を先導したG7も分断が鮮明だ。30年代の貿易戦争に比べ、足元の通商摩擦の規模はまだ小さい。ただ、戦後の世界経済は格段にグローバル化が進んでおり、国際貿易が滞れば各国に甚大な打撃を与えることになる。

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