2018年11月17日(土)

噺家と息、音で笑い操る 上方落語 お囃子さん(もっと関西)
ここに技あり

コラム(地域)
2018/7/2 11:30
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てけてんてん――。落語家が高座にあがる際、それぞれにおきまりの音楽(出囃子=でばやし)が奏でられる。ひいきの噺家(はなしか)の出囃子を聞くだけで気分が高揚するといった人も多いだろう。高座の舞台袖でこの出囃子を奏でているのは「お囃子(はやし)さん」と呼ばれる三味線奏者の女性。特に上方の落語には欠かせない存在だ。

舞台袖でお囃子の三味線を弾く内海英華さん

舞台袖でお囃子の三味線を弾く内海英華さん

活躍の場は出囃子だけではない。江戸落語に比べて派手で陽気な演出が好まれる上方落語では、たとえばお座敷のシーンで踊りの音楽が鳴り出すことがある。三味線や笛、太鼓、地唄や長唄を使った演出を「ハメモノ」といい、落語家の口演にあわせて多用するのは上方落語の特徴だ。

太鼓や笛などはお囃子さんの指示の下、落語家の弟子らが演奏する。お囃子さんはさながら落語家の指揮に合わせて舞台袖を統括する「コンサートマスター」といえる。

ベテラン落語家からの信頼も厚い寄席囃子の内海英華さん(58)は落語家との呼吸がしっかり合うと「ジグソーパズルが完成した瞬間のよう。作品の一部になれたという充実感がたまらない」という。

お囃子さんは、数百とも言われるネタのどこでどんな演奏が必要かを頭に入れておく必要がある。中にはハメモノをきっかけに落語家が言葉を発したり、演奏と落語家の掛け合いが笑いを生んだりする場面もある。

噺家の癖や時と場合によって変わる客のノリに応じ、ネタを盛り上げるどんぴしゃのタイミングで鳴らす技術は長年の経験で培ったものだ。「お囃子が入る間一つで客のウケが違う」とベテラン落語家の笑福亭松枝。

「辻占(つじうら)茶屋」という噺では、落語家とお囃子さんが声でやりとりをする場面がある。落語家のセリフとお囃子さんがそれを受けて言うセリフ、それぞれの語調だけでなく表情まで作り込んで発することができるようにと「若い頃は三面鏡の中に入って練習した」(英華さん)。

落語の世界を構成する文化や歴史の知識も演奏に生きてくる。花街を歩くシーンなら「格式が高く高級料亭が多かった宗右衛門町を歩いているのは『テンテンと上品に』、やや庶民的な松島新地なら『陽気にデンデン』」(英華さん)弾き方も変わる。

「出囃子は噺家の包装紙」と英華さん。客を落語本編に引き込む「まくら」のもう一歩手前、「演者が出る前に出囃子の三味線が聞こえてきただけで、次出てくる人は何か面白そうとワクワクして拍手が起きる」のが理想。上方落語の華やかな雰囲気はお囃子さんの演奏が作り出している。

文 大阪・文化担当 佐藤洋輔

写真 松浦弘昌

 カメラマンひとこと 「じゃあ行ってみましょうか」。案内してもらったのは舞台下手にあるついたての内側。ここが英華さんの仕事場だ。本番中は撮影できないとのことで、公演前に演奏をお願いする。ひとたびばちで弦をはじくと、照明などの準備が進む会場の空気が一変。広いホールに響く音色に、落語家の噺が聞こえてくるような気がした。

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