2019年8月22日(木)

HIV薬、根治めざす
(WAVE)成田宏紀氏

2018/7/2 6:30
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世の中には数多くの病気があり、人々を苦しめてきた。がん、心疾患、脳血管疾患などが恐れられているが、人類の歴史に刻み込まれた病気は何といっても感染症である。

2000年エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現・大和企業投資)に入社し、11年投資第一部副部長兼VC投資第四課長。14年5月、DCIパートナーズ社長就任。

コレラ、ペスト、結核など、かつて多くの命を奪った疾患は今では治療が可能となり、結果、がんなどが死因の上位に浮上したに過ぎない。多くの感染症はワクチンや抗生物質の発明によって死の病ではなくなったが、残念ながら、いまだに人類を脅かす感染症は健在である。

読者の世代で、恐ろしい感染症といえば、エイズを思い浮かべる方も多いのではないだろうか。

英国のロックバンド、クイーンのボーカリストであるフレディ・マーキュリーさんがエイズで亡くなったのは私にはショッキングなニュースだったし、米プロバスケットボール、NBAのマジック・ジョンソンさんがエイズウイルス(HIV)に感染したことを告白したのは皆さんの記憶にも残っているのではないだろうか。

HIVこそが疾患の原因となるウイルスの名称であり、感染によって引き起こされる疾患をエイズと呼んでいる。HIVの怖さは、生物に備わる防御機構である免疫を破壊することだ。HIVとは「ヒト免疫不全ウイルス」の略称であり、エイズとは「後天性免疫不全症候群」の略称である。免疫を破壊された患者は内外の敵に無防備となり、健常者は通常感染しない感染症にまで感染し、がんなども直接の死因となり亡くなっていく。

1980年代には同性愛者や血友病患者の間で多くのHIV感染者を出していたが、後に世界的なバイオベンチャーとなる米ジェネンテックがバイオ医薬品の先駆けとして輸血を必要としない治療薬の開発に成功し、血友病患者の方の多くの命を救っている。初の抗HIV薬の開発には日本人の研究者が大きく寄与したが、薬剤耐性ウイルスが出現したり重篤な副作用を伴ったりしたことから治療は難航した。

90年代後半、女優の深田恭子さんがヒロインを務めたドラマが放映され、日本でHIVへの認知が最も高まったと記憶している。だがその頃、HIV感染は死の病ではなくなっていたのである。

「ART」と呼ぶ治療法が確立され、HIVに感染しても一般的な寿命を享受できつつある。実はHIV感染からエイズの発症までは数年のラグ(遅延)があり、発症する前にHIVの活動を抑え込む仕組みだ。ただし、治療を生涯続ける必要があるし、副作用が重い。

現在の治療薬は、無治療でも発症しない「エリートコントローラ」と呼ばれる人々から獲得した抗体を用いるバイオ医薬品に開発がシフトしつつある。日本のバイオベンチャーであるCURED(横浜市)は、ウイルスを完全に体内から除去する「根治」を目指した治療薬の開発を進めている。

先進国では主要な感染症の治療薬はおおむね開発されつつあるが、マラリアを代表とする熱帯性の感染症は商業的な理由から本格的には開発されてこなかった。今、熱帯病が静かに北上を続けているが、治療薬の開発が間に合うか定かではない。

[日経産業新聞 2018年6月28日]

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