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白鵬の張り手やかち上げは禁じ手か

大相撲名古屋場所は8日、ドルフィンズアリーナで初日を迎える。最近、やり玉に挙げられているのが横綱白鵬の張り手やかち上げ。反則技でもない取り口は、それほど批判されることなのだろうか。

白鵬は5月の夏場所も、張り手を何度か見せて物議を醸した。昨年末には横綱審議委員会からも苦言を呈されている。過去には白鵬のかち上げで相手力士が脳振盪(しんとう)を起こしてひっくり返ったこともあるし、白鵬の張り手やかち上げを汚いとか醜いと感じる人もいるかもしれない。やる回数が多いことに不満を持つ人もいるだろう。見方は人それぞれ。しかし、長年相撲を取ってきた者からすれば、ひどい取り口とも思えないし、封印を余儀なくされるのはどうかと思う。

立ち合いで勢(右)に張り手をする白鵬(2016年夏場所)

相手をわざと痛めつけているのであれば問題だ。ただ勝負は甘い世界ではないし、相撲のルール上やってはいけないものでもない。自分の現役時代を振り返っても、貴闘力関はバンバン張っていたし、昔の人は立ち合いから相手を思い切り張り倒すつもりで、張ることだけしかやっていない力士だっていた。普段から頭と頭がぶち当たるような稽古をしていれば、そんな張り手くらいで倒れることもないだろう。やられたら逆にやり返すくらいの気持ちで白鵬に立ち向かっていけばいい。

若手に感じられぬ闘志や気概

かち上げや張り差しをする方からすれば、失敗したら逆に相手に踏み込まれて一気に押し出されてしまうリスクがある。張っていけば当然脇があくし、かち上げるときに背中が伸びてしまうことだってある。その隙を突いて、立ち合いから恐れることなく白鵬に強く当たっていけばいいし、立ち合いのタイミングをずらしたっていい。だが、今の若手は何の対策もなく、相撲にならないことが実に多い。

自分が現役のときは、武双山(藤島親方)や安芸乃島関(高田川親方)、琴錦関(朝日山親方)ら闘志をむき出しにする力士ばかりだった。だが、今の若手からは「何が何でも横綱に勝ってやる」という気概が感じられない。土俵に上がった時点で負けているというか、怖々と相撲を取って、おとなしく横綱の攻撃を受けてしまっている。白鵬相手に張り返したら巡業の稽古でかわいがられるのを恐れているのだろう。かわいがりを受ければ多少きつい稽古になるかもしれないが、昔ほどの厳しさはないし、本来は横綱と稽古できるのはありがたいこと。自分が強くなるために横綱に鍛えてもらえばいいのに、稽古が嫌だからみんな逃げている。だから、いつまでたっても勝てないのではないか。

白鵬が横綱で、しかもあれだけ強いからこそ批判されてしまうのかもしれないが、なぜ無策で敗れる若手に厳しい目が向かないのかと疑問に感じる。「なぜ横綱に立ち向かっていかないんだ」「なぜもっと稽古をしないのか」と若手の尻をたたく人がいない。白鵬が張り手やかち上げばかりやるのだったら、それに負けないくらいの体をつくり上げて当たりの強さを磨く。立ち合いの対策も練る。白鵬に「張り手やかち上げをやっていたら、もう勝てないかもしれない」と危機感を覚えさせるほど、下から突き上げていかないと世代交代は起きないままだ。先場所は24歳の阿炎が白鵬を一気に押し出して金星を挙げた。白鵬が張り手やかち上げをできないくらいの鋭い立ち合いだった。あのように臆することなく思い切って攻め込んでいけば、白鵬相手に勝てることだってある。ほかの若手力士にもできるはずだ。

先場所6日目、阿炎(左)に押し出しで敗れた白鵬=共同

プロとして気持ちで負けぬように

場所前の稽古では、近年はずっと横綱が稽古相手を求めて出稽古している。自分もそうだったが、本来は下の者が強くなるために、横綱ら上位力士のもとへ出向いて胸を借りるもの。考えられない状況がずっと続いている。昨年の冬巡業にいったが、ある20代の幕内力士は巡業の序盤で「いま調整しています」と言って稽古をしなかった。巡業が終盤になってもまだ稽古していないものだから、ある親方から「おまえはいつまで調整しているんだ」と雷を落とされて、ようやく稽古をするようになった。

ベテランともなればガツガツした稽古はできないと思うが、20代の若手は日ごろから追い込んだ稽古をしないといけない。稽古が足りずに体が弱くなっているから、番付を上げてもすぐにけがをして上位に定着する力士があまりいない。そして白鵬の張り手やかち上げに一発で負けてしまう。体もそうだが、プロとしてもっと自覚を持って気持ちでも負けないこと。若手は強い横綱がいるからこそ倒してやるという気概で、闘志を前面に出してほしい。

(元大関魁皇)

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