日本の海洋プラごみ、世界の27倍 EUが使用規制案

世界でプラスチック製品の使用を減らそうとする動きが広がっています。欧州連合(EU)は5月、ストローなどに用いる使い捨てプラスチックを禁じる規制案を加盟国に示しました。家庭からオフィスまで現代生活に最も身近といえる素材に、何が起きているのでしょうか。
まず問題視されているのが海の汚染です。ポイ捨てをはじめ海に捨てられるプラスチックは世界で年800万トンと、500ミリリットル入りのペットボトル換算で3200億本分と推計されています。こうしたごみが日光や潮流によって砕かれ、細かな粒となって海を漂っているのです。
大きさが5ミリメートル以下のプラの粒は「マイクロプラスチック」といわれ、魚などによる摂取が確認されています。魚を食べる私たちの体にも入っている可能性がありますが、人への影響はよく分かっていません。東京農工大の高田秀重教授は「プラごみに付着した有害物質などの人体への影響が懸念されている」と話しています。
汚染は海の隅々まで広がっています。海洋研究開発機構は、太平洋のマリアナ海溝1万メートルの深さにプラ製の袋が存在する映像をウェブサイトで公開しています。研究員の千葉早苗氏は「深海に達したプラは回収できず、生態系を取り戻すのに長い時間がかかる」と警告します。
日本の汚染が特に深刻だとする研究結果もあります。九州大の磯辺篤彦教授の調査では、日本の周辺海域のマイクロプラの濃度は世界平均の27倍に達しました。日本を含むアジアでのプラごみの発生量が多いことが要因とみられています。
実はEUがプラスチック製品の規制に動いた理由はもう一つあります。世界のプラごみの半分を受け入れてきた中国が1月から、国内の環境問題を重視して輸入を禁じたのです。プラごみの処理を中国に委ねていたEUなどではリサイクルが滞り、ごみの総量を減らそうとする流れになったのです。
日本もプラごみを中国に輸出していましたが、今のところ輸出先をほかのアジア諸国に切り替えることなどで急場をしのいでいるようです。ただし今後は受け入れの増えた東南アジアも輸入制限に動く可能性があります。東アジア・アセアン経済研究センターの小島道一シニア・エコノミストは「国内外でリサイクル施設への投資を進める必要がある」と話しています。
リサイクルに加え、プラごみを減らすことの重要性は言うまでもありません。例えば日本ではリサイクルされないペットボトルが年間38億本ほど発生している計算です。この夏、水筒を持ち歩いたり、川や海のプラごみを拾ったりしてみるのはいかがでしょう。
高田秀重・東京農工大教授「リサイクルは万能ではない」
プラスチックごみの発生はどのように理解すればいいでしょうか。この問題を約20年にわたり研究している東京農工大の高田秀重教授に聞きました。
――プラスチックごみはどうして海に流れ出すのでしょうか。

「たとえばペットボトルなら街での置き忘れやポイ捨て、ゴミ箱に入った後の動物のいたずらで散乱するケースがある。こうしたプラスチックが雨で洗われ川に入れば、やがて海に流れ込む。ペットボトル以外にも、化学繊維が洗濯くずとして河川に入り込むケースもある。私たちの研究では、人口50万人の都市なら1日で約10億個のマイクロプラスチックが下水処理場から河川に流れ込んでいる」
――プラスチックのリサイクルは不十分なのでしょうか。
「たとえばペットボトルなら8割以上がリサイクルされているが、リサイクルされないごみの一部は確実に川に流れ込んでいる。缶や瓶がペットボトルに置き換えられ、ここ数十年で日本人が使う量は増大した。川に流れ込むのが一部とはいっても膨大な量だ。私たちの調査では東京の荒川流域、富山湾、仙台湾の海岸など日本全国の水域にプラごみがたまっていることを確認した」
「リサイクルは万能ではない。例えばリサイクルしたプラスチックからできた園芸用品が野外で使われれば、やがて削れて雨に流され、マイクロプラスチックとなる。プラスチックごみの量を減らすことが一番大切だ」
――マイクロプラスチックは人体にも影響がありますか。
「マイクロプラスチックそのものは人に影響はない。魚介類の内臓を食べたことで我々の体に入ったとしても、やがて排せつするからだ。ただし酸化防止などに使われるプラスチックへの添加物や、プラごみに付着した有害物質の人体への影響を懸念している。現状では人の摂取量が大きくないので影響はないだろうが、量が増えれば問題になる可能性がある。野生生物を使った実験で影響を確かめていくが、予防的な観点からは今すぐ手を打つべきだ」
――どのような対策が考えられますか。
「プラごみの量を減らすため、個人にできることは多い。マイバッグを持ち歩き、スーパーやコンビニでレジ袋をもらわない。飲み物は水筒に入れ、ペットボトル製品を買わない。水筒に水を入れるための給水器を設置する、などだ。プラスチックを全部なくすというのではなく、過剰に使っているものを減らしていく努力をすればよい。あとは河岸や海岸に落ちているごみを拾うことだろう。こうした個人の活動が広がるだけでも、かなりのごみを減らせると思う」
(高橋元気)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。