2018年11月19日(月)

AIが探す事件・事故の目撃者 報道サポート

コラム(ビジネス)
スタートアップ
2018/6/27 6:30
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27歳、栃木県出身、東京都内の私大卒、キー局のアナウンサーからフリーに転身――。このプロフィルは、人のものではない。Spectee(スペクティ、東京・新宿)が開発する人工知能(AI)アナウンサーの設定だ。同社が提供する報道機関向けのニュース速報サービスやAIアナウンサーは、現場主義で属人的な働き方が多かった放送メディアに、風穴を開けつつある。

サービスのイメージ。人工知能を使ってSNSの動画や画像を自動収集する

サービスのイメージ。人工知能を使ってSNSの動画や画像を自動収集する

「突然の連絡失礼します。××テレビ報道局です」。25日、東京・代々木で起きた立てこもり事件。現場近くにいた一般人のツイートに、テレビ番組からの取材依頼が連なった。「こういったテレビ局のツイートは、ほとんどが当社が提供している速報データがもとになっている」。スペクティの村上建治郎社長はこう話す。

速報サービス「スペクティ」は、国内外問わず事件や事故の現場近くに居合わせた一般人の交流サイト(SNS)への投稿をピックアップして報道機関に知らせる。スペクティから伝えられた第一報を基に各局のスタッフが取材を依頼するため、初報を投稿した1人のツイートに様々な番組が群がっているように見える、という訳だ。

最近は居合わせた事件・事故の情報を、写真と共に発信する人は多い。報道機関にとっては、警察や消防などの公的機関の発表を待つよりも、自主的に発信する一般人のツイートを情報源にする方が圧倒的に短い時間で現場にアクセスできる。

「特に、映像が命のテレビ番組での活用が多い」と村上社長は話す。どんなに重要なニュースでも映像がないと番組にならないのがテレビ。自社の取材クルーで撮影するのが大原則だが、発生間もない現場映像は、のどから手がでるほど欲しい1次情報だ。現在、キー局などテレビ局を中心に約130社がサービスを導入している。

サービスの仕組みはこうだ。ツイッターやインスタグラムなどのあらゆる公開ツイートをAIが巡回する。つぶやきの内容や投稿されている写真をディープラーニング(深層学習)などで分析。例えば、写真に消防車や大量の煙が映り込んでいれば火事、などと判断する。発生場所は、映り込んでいる看板やツイートにひもづけられた位置情報から探る。

荒木ゆいのイメージ。「顔があったほうが親しみやすいですよね」と村上社長は笑う

荒木ゆいのイメージ。「顔があったほうが親しみやすいですよね」と村上社長は笑う

AIアナウンサーの「荒木ゆい」は、このサービスからのスピンアウトした技術だ。第一報を伝えるとき、「××市で火災」などと読み上げエンジンがニュースの概要を伝える。この仕組みに改良を加えた。

また、インターネット上に保存されている約10万本のテレビニュースなどを学習させた。長文の読み上げも得意になり、文脈の判断も可能になってきたという。「日本橋」という地名を、東京の話題ならば「にほんばし」、大阪の話題なら「にっぽんばし」と読むなど、精度が向上した。

「簡単なニュースであれば、AIが人に替わってアナウンスをこなせる」と村上社長は話す。実際、アナウンサーの人数が限られる地方局では、大きな事件や事故が無い限り、早朝や深夜に放送するローカルニュースをあらかじめ収録して放送するケースも少なくない。深夜ニュースを機械化できれば、夕方の生放送が終わると業務を終了することも可能になる。工事現場の誘導や百貨店の館内放送、公共交通機関の車内放送などにも活躍の場が広がりそうだ。

村上建治郎社長

村上建治郎社長

村上社長がスペクティを起業したきっかけは2011年3月の東日本大震災だ。東北に通いボランティアに参加する中、現場の混乱と正確な情報を唯一発信できていたのがツイッターだったという。どのアカウントをフォローするかで得る情報が偏ってしまう欠点があるが、「情報を正確にまとめればいい」と考え、同年スペクティ起業し、地域に関する投稿を集めるサービスを始めた。16年に報道機関向けのサービスに転進した。

いま急ピッチで開発を進めているのが、フェイクニュース対策のAIだ。(1)ブラックリストに載ったユーザーの投稿(2)フェイクが出てきやすい内容の投稿(3)フェイクが混ざりやすい写真――などをあぶり出すこともできる。AIができるところまで分析して、あとはスペクティのスタッフが最終確認する。AIと人の協業で、社会問題を駆逐できる――。スペクティの挑戦は、ネット時代と報道機関を結ぶ「懸け橋」になるかもしれない。(矢野摂士)

[日経産業新聞 2018年6月27日付]

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