2019年8月26日(月)

夢かなえる小口融資 世界に広げる
(アントレプレナー)五常・アンド・カンパニー 慎泰俊代表

2018/6/25 6:30
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五常・アンド・カンパニー(東京・渋谷)は発展途上国を中心にマイクロファイナンス(小口融資)事業を展開する。相手は各国の低所得層で、融資した数万円が貧困から脱出するきっかけとなることも多い。「どこで生まれても、夢があればかなえられる社会をつくりたい」とする慎泰俊代表(36)の強い思いが成長の原動力だ。

慎泰俊代表 2006年、早稲田大学大学院ファイナンス研究科入学。同年モルガン・スタンレー・キャピタル入社。07年、NPO法人「リビング・イン・ピース」設立。14年、五常・アンド・カンパニー創業

慎泰俊代表 2006年、早稲田大学大学院ファイナンス研究科入学。同年モルガン・スタンレー・キャピタル入社。07年、NPO法人「リビング・イン・ピース」設立。14年、五常・アンド・カンパニー創業

マイクロファイナンスは、2006年にノーベル平和賞を受賞したバングラデシュの経済学者、ムハマド・ユヌス氏が設立したグラミン銀行が有名だ。ただ、慎氏は目新しいものではないと話す。「つまりは信用金庫みたいなもの。日本人にもなじみがある」。農村などで働く人に1万~2万円程度を融資し、仕事をしながら1年ほどで返済してもらう仕組みだ。

問われるのは、その仕組みをやりきる実行力だ。五常・アンド・カンパニーは14年7月に創業。約4年の活動で、インドで間接的に約700万人、カンボジア・ミャンマー・スリランカの3カ国で約7万人の顧客を抱えるまでになった。

慎氏の実行力は、自身の生い立ちに深く関わっている。朝鮮籍で生まれたため、これまで出入国を巡る様々なトラブルにあってきた。進学の際には、親が苦労して学資を捻出。国籍の理不尽とお金の重要性は骨身に染みている。

朝鮮大学校を卒業後、プライベート・エクイティ(PE=未公開株)分野で働きたいと思った慎氏は、海外で経営学修士号(MBA)を取得しようと留学を志すが、うまくいかなかった。06年、約2年間の浪人生活を経て早稲田大学大学院ファイナンス研究科に進学。半年後、アルバイトとしてモルガン・スタンレー・キャピタルに入社し、その後社員になった。

大学院生と社会人の二足のわらじの生活は厳しかったが、金融を学んだことで念願だったPEのキャリアを得た。学校やインターネットで情報を集めれば集めるほど、世界が分かってくる。「夢を見たとき、最後に困るのはお金。そこに貢献できる仕事は問答無用で意味があると思った」

経験してきた苦労と追求するべき理想が結びつけば、後は早かった。在学中の07年、認定NPO法人「リビング・イン・ピース」を立ち上げ、09年に日本初のマイクロファイナンス投資ファンドを企画。働きながら8件の投資を実行し、国内で3つの児童福祉施設を新設した。

視線は世界にも向かう。質の高い満足のいく金融サービスの恩恵を受けている人は、世界人口75億人のうち約20億人しかいない。金融サービスがないエリアでは、違法業者が200%を超える金利でカネを貸していた。

マイクロファイナンスの功績は、この金利を30%まで下げて提供したことで日々の資金繰りを安定化させたことにある。世界全体でマイクロファイナンスへの融資は20兆円を超えているが、「潜在的なニーズは大きく、マーケットの伸びは早い。100兆円、200兆円は軽く超えるだろう」

だからこそ、五常・アンド・カンパニーは猛烈なスピードで動く。現在の従業員は世界で約500人。ホールディングス形式を取り、ノウハウを持つ従業員を各地で育てることでサービスを広げる「世界展開」を視野にいれる。

カンボジアのマイクロファイナンス機関を子会社化したのを皮切りに、スリランカやミャンマーなどにも会社を立ち上げた。共同創業者である公認会計士のサンジェイ・ガンディー氏が投資先の目利きとして候補となる現地の金融機関を回り、人材育成、顧客サービスをレクチャーする。「事業は順調。総資産は65億円程度になった」

社会貢献と利益追求は両立できるのか。慎氏は、発展途上の国では無理なく両立できるという。

例えば1万円の融資を得てミシンを買えば、手縫いの何倍もの生産性を得られる。利息を含めて返済しても、顧客は十分に手元に資産を残せる。事実、貸付債権の30日延滞率は、0.5%とかなり低い。顧客の9割以上は女性で、母親がお金を稼ぐようになると、家庭の雰囲気もよくなってくる。貧困を脱し、生活が安定すると、次は成長を求めて起業につながるケースも多いという。

五常・アンド・カンパニーの目標は、現地の子会社が利息収入のみに頼らず、新規事業の開発や経営力などを高めることで、エンドユーザーに、より低い金利で融資できるようにすることだ。

「30年までに50以上の途上国に拠点をつくる」。ビジョンと成長性に共感し、これまで第一生命保険やニッセイキャピタル(東京・千代田)らが総額約23億7000万円を同社に出資した。慎氏の理想と挑戦が、周りを巻き込み、大きなうねりをみせている。

(松本千恵)

[日経産業新聞 2018年6月25日付]

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