インスタも60分動画 親会社フェイスブックの思惑
【シリコンバレー=中西豊紀】写真共有サイト、インスタグラムがユーチューブに対抗する動画サービスを発表した。インスタの親会社フェイスブックと、ユーチューブの親会社グーグルの代理戦争の様相になっている。フェイスブックが取り込みたいのは「インフルエンサー」と呼ばれるインターネットの世界の有名人たち。ユーザーの高齢化や広告離れの悩みが背景にある。

ユーチューバー招き「宣戦布告」
「いまある動画の見方は時代遅れだね」。フェイスブック子会社の写真共有サービス、インスタグラムがサンフランシスコ市内で開いたイベント。登壇したケビン・シストロム最高経営責任者(CEO)は遠回しに動画投稿サービス最大手、ユーチューブを「口撃」した。
この日の会見は、綿密に用意されユーチューブへのライバル宣言と言えるだろう。
「IGTV」と名付けた新サービスの内容はインスタグラム上に最大1時間の動画を誰もが投稿できるというもので、ユーチューブと似たもの。翌21日からはユーチューブのクリエーターたちが多く集まる大規模な動画イベントがロサンゼルスで本格的に始まるが、その出ばなをくじくかのような発表のタイミングだ。

ゲストもユーチューブ上で人気のインフルエンサーたちが集まった。例えばコメディー動画で知られるレレ・ポンズさんはユーチューブで1000万人を超える視聴者を抱える。こうした人たちが自らの側にもついていることをアピールし、動画プラットフォームとしての潜在力を見せつけた。
とはいえ、動画コンテンツは昨年、ユーザー間のつながり増に寄与しにくいとしてフェイスブック自身が取り組みを弱めていたはずだ。それでも動画を深掘りするのは収益源のネット広告を嫌う人たちの増加にある。
ユーザー高齢化、広告離れ
調査会社のイー・マーケターによると、米国で広告ブロック機能を入れたいと考えているインターネットユーザーの割合は18年は約30%と14年の約16%から倍近くに増える見通し。ネット利用の煩雑さや個人情報の悪用への懸念からユーザーの広告離れは確実に進んでいる。
そんな中で広告主が目を付けているのがインフルエンサーだ。もともとインスタグラムの経済圏には写真投稿だけで大量のフォロワーを抱えるインフルエンサーがいる。こうした人たちはアパレル企業らと契約し商品の広告塔役を果たしていることも多い。

日本の大手自動車メーカーとも取引があるネット広告の関係者は「今やインフルエンサーの活用はマーケティングの常識」と話す。ユーザー自らがインフルエンサーの投稿を見に行くので、広告としてブロックもされにくい。フェイスブックはインスタグラムが写真で築き上げた新たな広告領域を動画にまで広げようとしている。
もう一つは若者ユーザーの食い止め。米ピュー・リサーチ・センターによる春の調査では米国の13歳から17歳の世代にとって最も人気の交流サイト(SNS)はユーチューブで、その次がインスタグラムだった。フェイスブックは4位と別の競合のスナップチャットに次ぐ位置だ。
「高齢化」が進むフェイスブックにとってインスタグラムの重要性は大きい。「10億人を超えた」(シストロムCEO)というインスタグラムのユーザーを囲い込み、さらに増やす手段としても動画は大きな意味を持つ。
先を行くユーチューブ
もちろん、挑まれる側のユーチューブも黙ってはいない。同社は18日、定額で音楽が聴ける新サービスを米国など世界17カ国で始めた。17年には有料のテレビ番組配信サービスも立ち上げている。メディアとしての総合力を駆使して18億人ともいわれるユーザーを飽きさせないようにしている。
2社の勝負の行方は分からないが、競争が動画投稿の市場を大きく変えていく可能性は高い。21世紀フォックスを巡る買収合戦が過熱するなど従来メディアの再編が本格化している米国だが、新興勢も現状に甘んじてはいないようだ。