秋のマラソン練習へ壊れない体をつくろう
ランニングインストラクター 斉藤太郎
ジメジメと蒸し暑い季節。長距離ランナーにとってもっとも走りにくい日々がやってきました。ここから夏にかけては多くのランナーの方々は走り込みをします。4月11日掲載の回でも少し触れましたが、この時期に走り込む意味を整理してみましょう。
■基礎力強化・仕込みとして走り込む
11月以降のフルマラソンでの好記録を狙い、おおむね9月中旬から先はレースペースを想定して長く走る練習を積みます。20キロのペース走や練習の一環で出場するハーフマラソンなど、負荷の高いメニューです。これを「実戦練習」と呼びます。通年で実戦練習を積むのではなく、フルマラソンの2カ月~2週間前あたりまでが実戦練習。最後の2週間を疲労回復と調整に充ててレースにピークを合わせます。

いきなり実戦練習をすると、その強度に体が耐え切れず、壊れてしまう可能性が高くなります。無理をして膝や腰、足首などを故障するケースがとても多いです。質の高い練習をしても壊れない体を前もって築いておく必要があります。そのためのこの季節の走り込みです。
<メニュー例>質はほどほど、長時間持続運動が中心
・2~3時間ウオーキング
・登山
・20~30キロランニング(のんびりと。途中で歩いてもいい)
・その他
朝は5時前後、夕方なら6時以降がこの季節の好ましいランニング時間帯です。週末は朝4時台に走り出し、7時前には終了。シャワーと朝食後に再び睡眠、みたいな流れもおすすめです。だれてしまいがちな休日に先制パンチ。朝から「既に走り終えている」という心理的アドバンテージを携えて1日を有効に過ごせます。

五輪メダリストのトレーニングを取材された方から聞いた話。朝+夕の2回練習、かなり走り込まれているのですが、驚いたことに朝食時にワインを飲んでくつろいでいたというのです(夕食時も同じ)。練習が終わるたびにリセットし、リラックスした状態で疲労回復を促す。1日が一般人の2日分のような過ごし方をされているのだと考えます。
■走行距離の算出について
自己記録を伸ばすために走行距離を増やす、月間単位で比較する――。気持ちはわかりますが、大切なポイント練習をこなした上で結果的に走行距離が増えていた、という流れを見失わないようにしてください。
サブ4、サブ5を目指す方の実戦練習を例示します。
<ポイント練習>
・15キロペース走(フルマラソン想定ペース)
・1キロ×5~7本(フルマラソンペースより1キロあたり15秒程度速いペース。間に2分間のジョギング)
<普段の練習>
・5キロ(30分)ほどのジョギング
夏を過ぎると上記のような練習が一般的ですが、練習前にはウオーキングで筋肉を覚醒させることです。終了後はしっかり疲労を解消する。メインのメニューはきっちり消化した上で前後の補助的な距離を伸ばしていくことが、けがをせずに走力を向上させるポイントです。
「サブ3もしくはサブ4を達成するには月間何キロ走るべきですか?」。そんな質問をよく受けます。前述のような考えで隙間部分に走るウエートを増やしていった結果として「○キロ増えていた」というのであればいのですが、先に「月間で○キロ増やす」と合計距離を設定して帳尻を合わせていく練習は好ましくありません。
人はたいてい週(7日間)区切りで生活しています。「月間」というあやふやなくくりよりも「週○キロ走った」という単位での比較の方が、まだデータとしてはいいかもしれません。
以上のことを押さえて、秋の実戦練習につながる効果的な走り込みをしてください。
春の運動会シーズンにいくつかの小学校に招かれ、走り方教室の講師をしてきました。後日、子どもたちから届くありがとうレターで「ケンケン鬼ごっこが楽しかった」という感想を多くいただきました。ケンケンは片足で体を弾ませ続ける運動です。片足で自らの体を支えることで体の軸を安定させ、着地反力を使って体を弾ませる感覚を身に付けることを意図しています。
30秒間のケンケンをそれぞれの足でします。鬼はコーチと先生。決められたエリアで歩いて追いかけてくる鬼にタッチされないように逃げます。仲間とぶつからないよう視野を広く取ることも大切です。締めくくりには両足を使って走って逃げます。とても盛り上がりますが、大人の方は体重が重たいので十分注意してください。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。