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21歳トーレス、ア・リーグ新人王争いの最右翼

スポーツライター 杉浦大介

ヤンキースで最大の有望株とみられていたルーキーが米大リーグ昇格後、いきなり大活躍している。ベネズエラ出身の二塁手、グレイバー・トーレスはまだ21歳。その若さに似合わぬ落ち着きでクラッチヒット(適時打)を連発し、地元ファンの大歓声を浴びてきた。大谷翔平の故障離脱でア・リーグ新人王候補の最右翼に浮上した新星は、このままスター街道を走るのか。

辛口の地元ファンも感嘆

4月22日にデビュー後、トーレスが短期間にもたらしたインパクトは辛口の地元ファンをも感嘆させている。

ここまで47試合で打率2割9分、13本塁打、34打点。特に5月は月間24試合で打率3割1分7厘、9本塁打と見事な成績を残し、ア・リーグの月間最優秀新人に選出された。本塁打は全ルーキーの中で1位というだけでなく、ア・リーグの二塁手の中でもトップの数字である。

「メジャーはマイナーと比べて投手の能力が高く、変化球の質もいい。様々な点でゲーム中のスピードが速い。心身両面で日々、その点に備えるようにしている。それができれば、自分らしいプレーができるはずだからね」

トーレス本人はマイナーとメジャーの違いをそう語るが、ここまで適応するために苦心しているように全くみえない。ヤンキースは4月21日から5月9日までの18試合で17勝と、圧倒的な強さを示す快進撃。その急上昇がトーレスの鮮烈デビューとほぼ同時に始まったのは偶然ではあるまい。

母国の英雄オマー・ビスケルが憧れだったというトーレスは2013年にカブスと契約。その後、16年にヤンキースが抑え投手のアロルディス・チャプマンを放出した際に交換要員として移籍してきた(チャプマンは17年にフリーエージェント=FA=でヤンキース復帰)。身長185センチという公式発表より小柄にみえ、昨季センセーションを巻き起こしたアーロン・ジャッジのような迫力は感じさせない。しかし、派手さはなくてもスイングも二塁の守備も実にスムーズ。欠点が少なくいわゆる「コンプリートプレーヤー(完成された選手)」である。

若さに似合わぬ落ち着き

「1つの抜きんでた武器があるわけではないが、多くをこなせる。若さに似合わぬ落ち着きでどんな場面でも仕事を果たしてくれる」

アーロン・ブーン監督の言葉通り試合終盤の勝負強さは驚異的で、すでに多くのハイライトシーンを演出してきた。

5月6日のインディアンス戦では九回に3ランを放ち、21歳144日でのサヨナラ本塁打でミッキー・マントル(21歳185日)が持っていたチーム最年少記録を更新。5月29日のアストロズ戦では延長十回にサヨナラ打を放つと、6月14日のレイズ戦でも今季13号の逆転3ラン本塁打を放って勝利に貢献した。打順は主に9番に座り、下位打線からクラッチヒットを量産している。

「まだ若いけれど、もう多くのことを見極めている。すごい才能だよ。打撃はアグレッシブなのに、それでいてボールを手元まで引きつけることができている」

チームメートのブレット・ガードナーがそう称賛する通り、実際にフィールド上での冷静さは21歳とは思えない。2ストライク後に打撃のアプローチを変える適応力も新人離れしており、重要な局面で好打できるのはそれが理由だろう。

4月、5月に1度ずつ行われたヤンキース―エンゼルス戦の際、日本のファンの間では大谷と田中将大の対決が大きな注目を集めた。一方、地元ニューヨークのメディアは大谷、トーレスという2人のビッグルーキーがどんな輝きを放つかを楽しみにしていたフシがある。

5月25日の対戦ではトーレスが大谷の目の前で本塁打を打ち、2-1での勝利の立役者になった。試合後、トーレスは「大谷はいい奴だね。二塁で顔を合わせて、"ハイ"といわれたから"ハイ"と返したよ」と珍しくあどけない笑顔をみせた。

個人記録には無関心の様子

4月は大谷、5月はトーレスがア・リーグの月間最優秀新人を受賞し、両雄はこのままハイレベルな新人王争いを展開していくかと思われた。その後、大谷が右肘の靱帯部分断裂で離脱してしまい、トーレスは新人王の大本命に浮上したようにみえる。ただ、メディア対応にも落ち着きを感じさせるトーレスは周囲の騒々しさをよそに、個人記録にこだわっている様子は全くない。

「新人王になれたら素晴らしいだろうし、オールスター候補なんて声が出ていることには感謝している。ただ、今の僕は日々に集中するようにしている。個人のことはあまり考えないようにしているんだ」

日々のプレーに取り組む姿勢を見る限り、そんな言葉は口先だけのものとは感じられない。宿敵レッドソックスと激しい首位争いを続けるチームにとっても、新たなスター候補は心強い存在であり続けるはずだ。

今のヤンキースはジャッジ、ゲーリー・サンチェス、グレグ・バード、ルイス・セベリーノ、ミゲル・アンドゥハルといった生え抜きの若手プレーヤーたちがチームの中軸を形成している。彼らが田中、ジャンカルロ・スタントン、ディディ・グレゴリアス、チャプマンらベテランとうまくかみ合っていけば、チームの未来は明るい。これほど選手層が厚いチーム内でも、気の早いニューヨーカーは「トーレスこそが"世界一"奪還に向けた最後のピースではないか」と騒ぎ始めている。

「その勝負強さは群を抜いている。舞台が大きくなればなるほど、彼はいいプレーをしてくれる。大事な場面でもおじけづくことはないんだ」

ブーン監督も目を細めるほどの肝の据わったルーキーは、ニューヨークで赤丸急上昇中。スーパールーキーの到達点は新人王獲得だけではない。このままいけば、今秋にはさらなるビッグステージ(=プレーオフ)で暴れるトーレスの姿をファンは目にできるはずである。

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