2018年11月20日(火)

若者2秒でつかめ 通信大手が動画スタートアップ囲い込み

スタートアップ
モバイル・5G
2018/6/17 6:30
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大手通信各社が次世代通信規格「第五世代(5G)」のキラーコンテンツと目される動画サービスを手掛けるスタートアップの囲い込みに動き出した。スマートフォン(スマホ)で動画を見慣れた若者は移り気で、おもしろくなければ数秒で別の動画へと次々に切り替える。従来のテレビ向けの動画と大きく異なるノウハウを取り込むのが狙いだ。

■スタジアムで動画オークション

「サイン入りのシューズ、10万円からの逆オークションです」。今春、味の素スタジアム(東京都調布市)で開催されたサッカーJ2リーグ試合中のハーフタイムに、人気選手が巨大スクリーンに登場し、テレビショッピング風の商品紹介を始めた。最初の10万円は、時間がたつと徐々に下がっていく。サポーターはスマホの専用アプリで、買いたいと思った値段に下がった時に入札する。わずか4秒ほどで約9万8000円で落札された。

味スタでのイベントを開いたのは動画制作・配信のCandee(キャンディ、東京・港)。古岸和樹社長は「2020年に5G時代が到来する」と見越して17年6月にライブ動画を通じて買い物を楽しめるアプリ事業を立ち上げた。テレビ局出身のスタッフを集め、月に約30~40本の高品質動画を配信し、興味がなければ数秒で画面を切り替えてしまう移り気な視聴者を引きつけるノウハウを積み上げてきた。

そこに目を付けたのはNTTドコモ。5Gを生かす用途を探り、通信インフラの上に乗る様々なサービスを自ら提供する企業へと変革を進めるドコモは、スポーツ関連の新事業を構想していた。

キャンディの古岸社長も電子商取引(EC)にとどまらず、動画と相性のいいスポーツ事業に進出する戦略を練っていた。出資者を募る会議の中でドコモの説明を聞き「親和性が高い」と直感した。ドコモは傘下のNTTドコモ・ベンチャーズを通じて24億5000万円の増資に参加した。今後、情報提供や動画配信を通じて、ファンを競技場に呼び込むためのアプリやサービスを両社で開発する。

KDDIも自前のEC経済圏を拡充しようとスタートアップとの協業に動いた。3月、料理動画サイトの「デリッシュキッチン」を運営するエブリー(東京・港)に30億円を出資し、出資比率20%弱の持ち分法適用会社にした。

「動画コマース事業を進めていこうという方向性がKDDIとぴったりあった」と話すのはエブリーの吉田大成社長だ。主力のレシピ動画に加え、若い女性や母親向けの情報提供サービスを展開している。収益力の向上を目指し、17年後半からEC事業の試験運用を進めたものの、「単独では商品の調達や配送のための流通網を十分に確保することが厳しい」(吉田社長)という課題に直面していた。

そんなときEC事業のテコ入れを目指すKDDIから「一緒にやれないか」との打診があった。KDDIは独自のECサイトを持ち、その流通網をエブリーに提供する。エブリーは蓄積したノウハウを生かし利用者を引きつける動画を作る。思惑は一致し、約半年の議論を経て3月に提携を発表した。

「グリーのような大きな成長を期待している」。提携をまとめる会議の場にメッセージが寄せられた。送り主はKDDIの高橋誠社長(当時は副社長)だった。エブリーの吉田社長はグリー出身。グリーが上場前の06年にKDDIから出資を受けた際に、KDDI側の責任者が高橋氏だった。共同事業による動画ECのアプリは7月までの完成を目指し、開発は佳境に入っている。

ソフトバンクも1月、料理動画「kurashiru(クラシル)」を運営するdely(デリー、東京・品川)に出資。5G時代の新たな動画サービスを探る。

■ECや広告の基盤に

通信事業者が動画サービスに力を入れる理由は3つある。まずは5Gの用途創出。20年の5G開始に向けて、通信事業者は投資を拡大しているが、有望な用途を提案できていない。「大容量、低遅延で新しいサービスを作ると世界の事業者が言っているがピンとくるサービスがまだない」とKDDIの高橋社長。同社は動画を本命サービスの一つと見て、動画配信の米ネットフリックスとの提携を打ち出した。

その動画も単に高精細になるだけではない。キャンディの古岸社長は「20年には動画にAR(拡張現実)やVR(仮想現実)と組み合わせて使うことになる」とみる。例えばスポーツを競技場で観戦しながらスマホで選手視点の映像を見たり、スマホをかざすと選手の成績や関連情報を重ねて表示したりといったサービスが想定される。データ量は膨大になり5Gの特長が生きる。

2つ目の理由は動画が「若者に最も身近なメディア」になりつつあることだ。96年以降に生まれたジェネレーションZ(Z世代)は「スマホと共に育ち、動画を介さないコミュニケーションはありえない」(エブリーの吉田社長)。若者の間で、動画は文字よりも身近で価値のある情報として定着しつつある。学生や新入社員といった新規顧客を狙う通信事業者にとって若者が好む動画サービスは欠かせない。

コンテンツとしてだけでなくECや広告など幅広い事業展開が見込めることが3つ目の理由だ。広告に注目したのはKDDI傘下でケーブルテレビ(CATV)最大手のジュピターテレコム(JCOM)。ネット動画制作のベンチャー企業、プルークス(東京・中央)を連結子会社化した。

人口減の中、ケーブルテレビ事業は大きな成長は見込めない。JCOMはBSなどで放映している広告をユーチューブなどネット動画にも流す新事業に取り組んでいる。映像制作チームを抱え、自社で番組や広告を制作することも可能だが、JCOM出身でプルークスの副社長に就いた松浦寛之氏は「テレビの30秒CMとユーチューブで動画が始まる前に流れる6秒のCMとでは、求められるノウハウがまるで違う」と話す。

プルークスは「2~3秒で見切られない、魅力的な動画を作るノウハウを培ってきた」(皆木研二社長)。ユーチューブなどネット動画向けの広告が中心だが、JCOMとの提携でCATV向けの動画広告の作成にも乗り出す。

■土管屋にならず

サイバーエージェントによると、17年に1374億円だったスマホ動画広告市場は22年に3000億円を超える。広告のみならず、テキストから写真、次は動画へ。通信技術の進化に合わせ、携帯やスマホ画面を飾るメディアは変化してきた。

5Gが実用化されても、その上に乗る魅力的なサービスがなければ普及しない。通信事業者は自らサービスを開発しなければ、ただの「土管屋」に終わってしまう。すでに多様なサービスと国内9千万人もの顧客基盤を抱える楽天の参入もあり、通信事業者の危機感は強まっている。5Gのメインコンテンツとなる動画ファースト時代に主導権を握るのはどの事業者か。本丸の通信事業にも大きく影響するレースが始まっている。

(企業報道部 松元英樹、堀越功)

[日経産業新聞6月13日付]

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