「オートテック」、成功の条件は 日米CxO対談

2018/6/18 11:30
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米国を中心に「オートテック」と呼ぶ自動車分野のスタートアップ企業の動きが目立ってきた。自動運転などの技術革新が追い風だが、この分野ならではの難しさもある。ブリヂストンが支援する米クリアモーションのシャキール・アバダニ最高経営責任者(CEO)とKDDIなどが出資したティアフォー(名古屋市)の加藤真平最高技術責任者(CTO)が現状と課題を語り合った。

――米国を中心にオートテックが盛り上がっていますが、日本ではまだあまりなじみがありません。まず両社の概要を教えてください。

アバダニ氏 米マサチューセッツ工科大学(MIT)在学中の2009年に起業した。当初は道路の凹凸によって生じる振動を利用して発電する技術を開発していたが、うまくいかなかった。12年に仕切り直し、この技術を応用して振動を大幅に抑えるショックアブソーバーをつくった。雑音と正反対の波形の音をぶつけて中和するヘッドホンのノイズキャンセリングのような仕組みだ。

 加藤真平(かとう・しんぺい) 2008年慶大院修了。米カーネギーメロン大学などを経て12年に名古屋大の准教授に就き、15年にティアフォーを設立した。現在はティアフォーの最高技術責任者(CTO)のほか、東京大准教授などを務める。36歳。

加藤真平(かとう・しんぺい) 2008年慶大院修了。米カーネギーメロン大学などを経て12年に名古屋大の准教授に就き、15年にティアフォーを設立した。現在はティアフォーの最高技術責任者(CTO)のほか、東京大准教授などを務める。36歳。

加藤氏 当社は名古屋大学や産業技術総合研究所などが開発した自動運転向けの基本ソフト(OS)「オートウエア」の実用化を進めるために15年に発足した。こうした研究成果を実用化するためには外部企業に技術供与するといった形もあるが、スピード感を出すためにはスタートアップという形が一番いいと考えた。名古屋はトヨタ自動車のお膝元という事情もあり、自動車関連への理解が深いのも追い風になった。

――とはいえ、歴史的に安全や安心を最重要視してきた自動車業界と、スピード重視のスタートアップでは意見が食い違うこともあるのでは。

アバダニ氏 現在ではそのような問題はなくなっている。世界中の自動車メーカーや1次部品メーカーは「現在の決断により勝者になるか敗者になるか決まる」との思いを強くしている。自動車業界は現在の延長線上でビジネスを進める守りとその先への攻めという要素があり投資を含むスタートアップとの連携は攻めの有効な手段だ。

――オートテック分野のスタートアップによる資金調達は2017年に世界全体で前年比3倍の5000億円規模(米CBインサイツ調べ)になりました。

加藤氏 米国に比べてスタートアップへの投資の歴史が浅い日本でも変化を感じる。以前であれば1社に対して1000万ドル(約11億円)以上を投じるファンドや事業会社はそう多くなかったが、投資の規模が大きくなってきた。当社も今春までにKDDIやベンチャーキャピタルなどから約35億円を調達し、採用などに充てる。

日本企業で興味深いのは、スタートアップが多い米国を中心に情報収集や投資活動を強めていることだ。当社はオンライン教育サービスを提供する米ユダシティなどと組んでおり、米国で当社の話を聞いて声を掛けてきた企業も少なくない。日本のスタートアップにとっては米国で存在感を高めることが自国での事業拡大につながる。

――自動車は最終的にハードウエアが大きな役割を果たす産業です。その量産でつまずくスタートアップが少なくありませんが、どう壁を乗り越えますか。

 Shakeel Avadhany 2009年に同級生とクリアモーションを設立。17年に米JPモルガン・チェースなどから1億ドル(約110億円)の資金を調達し、音響大手の米ボーズから自動車のショックアブソーバー関連技術を買収した。30歳。

Shakeel Avadhany 2009年に同級生とクリアモーションを設立。17年に米JPモルガン・チェースなどから1億ドル(約110億円)の資金を調達し、音響大手の米ボーズから自動車のショックアブソーバー関連技術を買収した。30歳。

アバダニ氏 当社は数年以内に製品を実用化する計画を進めており複数の自動車メーカーとの共同開発に取り組んでいる。カギを握るのは人材だ。実際に自動車メーカーなど「顧客」から受け入れた量産などの知見のある人材がこうした分野を支えている。ただ当社に合わない人材を採用して辞めてもらう不幸もあった。重要なのは信頼や目線を合わせることだ。

加藤氏 人材は当社にとっても大きな課題だ。設立から2年間は大学の教員というバックグラウンドも生かし、教え子やその知人・友人といった基本的な考え方を共有できる人材でチームを立ち上げることに集中してきた。今後は調達した資金も活用して採用を加速するが、日本だけでは優秀な技術者の確保に不安がある。提携先のシリコンバレーの企業を通じた人材の確保も進める。

――自動運転は自動車メーカー、スタートアップともに注目する分野ですが、米国では実験中に死傷事故がおきるなど開発が減速する懸念も生じています。

アバダニ氏 自動運転で一番大事なことは安全、その次が目的地にきちんと到着することだ。最近の事故は明らかに技術に問題があり、当局も対策を取っている。ただ、究極的には技術で安全性は高まる。その先ではコストや速度、快適性などがテーマになり、車内の振動を減らして移動時間を有効に使える当社の技術も役立つ。

加藤氏 安全が最優先であることは疑いようのない事実だ。特に高速走行の際はなおさらだ。ただ当社が事業のひとつの領域として考えているのは、「ラスト1マイル」と呼ばれる低速の近距離移動だ。ここでは車体に柔らかく人を傷つけない素材を使うことなどにより、高速走行とは異なる安全基準ができるかもしれない。こうした分野では古くからの価値観にとらわれないスタートアップが価値を発揮しやすいかもしれない。

――自動車メーカーや大手部品メーカーがスタートアップとの連携を成功させる条件は何と考えますか。

アバダニ氏 当社は現在、ブリヂストンや自動車メーカーと共同開発を進めてうまくいっているが、この分野での経験が比較的長いという事情が背景にある。現在、白紙の状態から新車をつくるには最低でも24カ月、40カ月かかることもある。スピード重視のスタートアップには24カ月でも十分に長いが、耐久性や量産準備に必要ということを学んだ。両者が妥協できるポイントを早期に見つけるのが非常に重要だ。

■カギ握る人材の交流
 研究開発を「外部化」する流れが自動車業界にも押し寄せている。未知の問題を解くには仮説を立て検証するプロセスを高速で回す手法が有効で、こうした取り組みは小回りが利くスタートアップ企業が得意としているためだ。スタートアップが研究開発を担い、大手企業が買収などで成果を取り込む流れは製薬業界などで先行した。
 こうした取り組みを成功させるカギのひとつは、大手企業とスタートアップの間の人材交流だ。相互理解を深めることにより、基礎研究から量産までを円滑に進められる可能性が高まる。
 自動車でも自動運転や電動化、シェアリングといった「100年に1度」と呼ばれる大きな変化が外部化を後押しするが、投資家などからは大手企業とスタートアップが対立したり、妥協点を見いだすのに苦労したりする事例も聞く。この溝を早期に埋めることが自動車産業の競争力向上、そしてスタートアップの成功への近道となる。

(編集委員 奥平和行)

[日経産業新聞 2018年6月18日付]

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